なぜ、わざわざアンラーニングすべきなのか

 さて、ここは特に大事な箇所だ。アンラーニングとは、いわば「過去の経験を一回捨てる、もしくは脇に置いておく」ことを指す。「過去の学びを手放すこと」とも言えるだろう。

 私がアンラーンの重要性を話すと、「なぜせっかく積み上げてきたものを捨てなければいけないんだ?」と怪訝(けげん)な顔をする方も多い。ごもっともだ。丁寧に説明していきたい。

 特に転職した場合にアンラーニングすべきことは、「過去の成功パターン」「所属していた会社の意思決定構造」の2つだ。アンラーンができていないことが原因の失敗は非常に多い。例を挙げてみよう。

(1)業界の行動基準が違うがゆえに、うまくワークしないケース

 外資系企業から、大手商社に転職した方だ。どちらの会社も「合意形成」を経て進めることが重要だった。だが、前職の外資系企業では、自身の直属の上長が評価者であり、かつ意思決定者でもあったので、目標も、実務も、直属の上長との合意形成をしておけばよかった。一方で、大手商社に移ってきてからは、想像してはいたものの、合意を取るべきステークホルダーが予想以上に多く、苦戦した。

 というのも、直接の上長への合意形成はもちろんのこと、上長経由でのその上の役員への合意形成、加えて、関連組織の管理職や関係者が集まる場での「事前合意」も必要だった。直の上長とだけの合意形成で突っ走ったところ、いつまでたっても企画が進まないばかりか、組織内で大きな不和まで生んでしまった。

 計画策定やプロジェクトマネジメント、合意形成が得意なつもりでも、業界や企業規模やステージが違えば、判断基準の不一致は「必ず」生じる。そのくらいの認識でいることが重要だ。

(2)過去の自分の成功スタイルにとらわれ、失敗するケース

 いちばん多い失敗パターンはこれだ。私は先ほど、「3カ月を区切りに組織にとって価値ある成果を出そう」と話した。

 一方で、短期の成果を急ぐあまり、前職、過去の成功スタイルで無理に突破しようとしてしまうと、その「焦り」が落とし穴になる。よくある例を挙げよう。