透明(クリア)タンク醸造からLED光照射発酵へ、前代未聞の進化を続ける酒造り
世界初、日本酒の醪(もろみ)発酵の可視化に成功したのが、栃木県小山市の西堀酒造5代目の西堀和男さん。1872年創業、地元消費が9割という地酒蔵だ。歴史的に酒造りの容器は、甕(かめ)から木桶、金属桶と変遷したが、全て不透明な素材のため、発酵の状況は液面を見て、成分を分析して調べる。ある日、和男さんは水族館でクラゲが身を任せて漂う姿を見て、酒の醸造と重なり透明な醪タンクが閃いた。だが醸造機器メーカー10社に製造を断られる。諦め切れずに探し回り「保証なし」の条件で、水槽メーカーが受けてくれた。価格は通常のタンクの約5倍だ。
実際に酒造りを行うと、予想以上に醪は激しく対流していた。「対流の状況が確認できるので、必要なときだけ櫂(かい)入れを。自然に任せることで酒が洗練されました」と6代目の哲也さん。さらに、酒造りは進化を続ける。ヒントは水耕栽培だ。LED光照射で育つ野菜は、青色光でポリフェノールが増えるなど、光の波長で栄養成分が変わる。光は醪発酵にも生かせるのではと、LED光で照らした。「赤色光は酵母の発酵が促進され辛口に。青色光は抑制され甘めに。光の色調で風味が変わります」。「ILLUMINA(イルミナ)」と名付けた。