ファイルの中から
見つけた1枚の写真

 ファイルを眺めていると、歴代担当者は林田氏という個人に何の関心もなく、ひたすら林田氏の資産にしか興味がないことが分かった。銀行が求めているものと、お客が期待していることには大きなギャップがあるということも、その時気づいた。

 金持ちでもそうでない人でも、相手は変わらない生身の人間。資産があるから銀行からチヤホヤされているが、文無しになれば見向きもされない。銀行員とは何とも嫌らしいものだと、駆け出しの自分は現実を知った。

 1時間は過ぎた頃だろうか、村石課長が大声を上げた。

「これや! おーい、目黒、見つけたぞ」

 課長が差し出したファイルには、古びて黄ばんだ青コピーに、セロハンテープで貼り付けた写真があった。課長の横からのぞきこむと、絶大の人気を誇っていた千代の富士と一緒に写っていた。一郎さんは今よりずっと若く見えた。おそらくかなり前のものだろう。当時の支店長がなぐり書いたメモを読むと、「1989年大阪場所 優勝後の千代の富士関と」とあり、千秋楽の打ち上げパーティーに参列した時の写真だった。

「これがどうしたんですか?」

「鈍いな。相撲好きや」

「ええ、まあ…」

「今、ちょうど大阪場所やん、ええ席用意すりゃ機嫌も良くなるやろ」

「席って? チケットを渡すんですか? 相撲のチケットって、どこで買えるんですか?」

「打ち上げパーティーに出てるし、後援会には入っとるやろ。そんな人がマス席程度じゃ喜んではくれへんな。まあ、明日当たってみるわ」