安定した経営基盤と
後継者問題の解消が急務だった
今回のジブリの決断は、安定した経営基盤を必要とした危機感との見方が有力だ。後継者問題もさることながら、ジブリの映画製作には多くのコストがかかる。必要な資金を確保し、業務管理なども円滑に進めるにはどうすればいいのか――。こうした問題意識の高まりは、9月21日のジブリの発表内容からも確認できる。
具体的には、〈今年7月、宮﨑駿監督の最新作『君たちはどう生きるか』を7年の歳月をかけて完成させ、劇場公開を果たしました〉と記してある。一つの映画の製作に、7年もの時間と人材、資金をつぎ込んでいる。過去にプロデュサーの鈴木敏夫氏が「一本の映画製作に、400~500人のスタッフがかかわる」と話したこともある。
もちろん、作品にもよるだろうが、ジブリで1週間に作成される映画の時間は、5秒ほどだという。ジブリが2時間の映画を作るためには、最低2年間の時間が必要との見方もある。その間に新作の上映がないと、資金は流出する一方だ。
また、新作が出ても利益が出ると限らない。2013年に公開された宮崎監督の映画、『風立ちぬ』の興行収入は120億円だったが、コストは回収できなかったようだ。ジブリの収益が損益分岐点を上回るには、『千と千尋の神隠し』のような300億円超のヒット作を多く生み出す必要がある。
ただ、どれだけのヒト・モノ・カネをつぎ込めば、宮崎監督が納得できる作品になるか、事前にわかるものではない。より多くの人を魅了し続ける作品を生み出すためには、それだけの感性や職人技が必要だろう。また、宮崎監督は82歳、鈴木氏も75歳になった。ジブリがこのままの体制を続けることは、どうしても難しい。
より安定した経営基盤を手に入れ、後継者問題も解消するために、日テレ傘下入りを選択したことは想像に難くない。「背に腹は代えられぬ」がジブリ幹部の本音だったのではないか。