政府は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の解散命令を請求する方針を固め、10月12日にも宗教法人審議会(文部科学相の諮問機関)を開き、最終判断する見通しだ。一方、安倍晋三元首相を銃撃して逮捕された山上徹也被告の初の公判前整理手続きが今年6月に奈良地裁で予定されていたが、地裁に不審物が届き、職員たちが一時屋外に避難する騒ぎが起こった。しかし、荷物の中身は被告の減刑を求める署名だった。公判前整理手続きは取り消しとなり、山上被告の弁護団の一人は「今年中に裁判が始まることは100%ない」と語る。戦後最大の長期政権を築いた元首相を殺害した男の裁判では、いったい何が争点になるのか。『「山上徹也」とは何者だったのか』(講談社+α新書)を上梓したジャーナリストの鈴木エイト氏に聞いた。(聞き手/ビデオジャーナリスト 長野 光)
旧統一教会問題の追及を終えることは
安倍元首相の死に目を背けること
――安倍元首相が突然あのような形で凶弾に倒れ、当初は安倍元首相に同情する方向で話が進むのではないかと思いました。しかし、実際にはむしろ、旧統一教会と政治の関係を問題視するほうに世の中の関心は向かったようにみえます。エイトさんはどのような感想をお持ちですか?
もし、山上徹也被告がここまでを意図して計画していたとして、今の状況にほくそ笑んでいたとしても、それは別の議論だと思います。そのような感情論で本件の扱われ方が左右されてしまうと、旧統一教会の抱える根本的な問題は置いていかれてしまいます。
安倍元首相があのような非業の死を遂げたのはかわいそうである。それは、その通りで、どのような人であれ、あのような殺され方をされるべきではありません。しかし、では安倍元首相がなぜあそこまで恨まれて、ターゲットにされたのか。山上徹也被告はまだ核心を語っていませんが、動機面はちゃんと調べて追及していく必要があります。
この問題を突き詰めて調べていくと、どうしても、安倍元首相と旧統一教会の関係がクローズアップされる。これは問題の性質上、避けられないことだと思います。
山上徹也被告をそこまで追い込んでしまったという点で、私は自分にも責任があると思っています。それは、安倍元首相と旧統一教会の関係について私が触れなければ、こんな事件は起きなかったということではありません。むしろ、もっと早く、もっとちゃんとこの問題の本質を世に問うていたら、安倍元首相も殺害されることなく、生きたまま追及されたはずだと思うのです。そして、山上徹也被告を犯罪者にすることも防げたかもしれません。
全国霊感商法対策弁護士連絡会の紀藤正樹弁護士も「政治家の先生方にこういった教団と付き合うことの重大性をもっと認識してもらっていたら、こんな事件は起こらなかった」と語っています。
「安倍晋三という偉大な政治家がどうしてこんな形で亡くならなければならなかったのか」「そこをちゃんと検証しましょう」という動きが、本来は安倍派の政治家から出てくるべきだと思います。はたして、彼らは本当の意味で安倍元首相を追悼しているのでしょうか。自分に火の粉が及ばないように、この問題をここで終えて、安倍元首相の死に目を背けているのではないでしょうか。