安倍元首相と旧統一教会の関係を
正確に語れる人がいなかった

――「教団への憤り・恨みが安倍晋三という個人へ向かったことには飛躍があると、多くの識者やコメンテーター、キャスターは言う。しかし、本当にそうだろうか」と書かれています。

 事件後の報道で「安倍元首相と旧統一教会の関係以外にも、山上徹也被告があの事件を起こした原因があったのではないか」という臆測はよく見られ、有名なキャスターなどがそうした発言をしたケースもありました。

 あるいは「(安倍元首相が事件前に旧統一教会の大規模なイベントに韓鶴子〈ハン・ハクチャ〉を礼賛するビデオメッセージを送ったことに対し)政治家であれば、頼まれればビデオメッセージくらい送るよね」「あれだけで逆恨みされちゃったんだね」といったコメントをする人がかなりいました。ひどいケースになると、安倍元首相と旧統一教会の関係を陰謀論扱いする人もいます。

 NHKが事件から1年ということで番組を作りましたが、そこでは「旧統一教会との関係以外に安倍元首相を狙った動機は他にもあったのではないか」と世の中で思われていることに対して、山上徹也被告が「それは心外だ」とリアクションを示したことを紹介しています。

 私は以前『自民党の統一教会汚染2 山上徹也からの伝言』(小学館)という本を出し、その中で爆笑問題の太田光さんと対談をしましたが、太田さんは「山上徹也被告は無差別殺人者になった可能性もある」といった主旨の発言をされています。これに対しても、山上徹也被告からは否定するリアクションが最近ありました。

 正しい情報を十分に知らなければ「旧統一教会との関係以外に安倍元首相を狙った動機は他にもあったのではないか」と考えてしまうのはある程度は仕方のないことなのかもしれません。

 実際、この10年の安倍元首相と旧統一教会の関係を正確に語れる人がいませんでした。有田芳生さんなどは非常に詳しく取材をされていましたが、それでも、この10年の動きは正確に追いきれていなかったと思います。多くの人は岸信介と旧統一教会の関係から、一気に安倍元首相のビデオメッセージに話が飛んでしまうのです。