のんさんの「その後」に見る
エージェント制の実効性

 新会社が新たにエージェント契約制を採用し、よりタレントが自由に活動できるようにバックアップするというのも再生構想の目玉です。とはいえ現実に目を向けると、日本のエンタテインメント業界で今のところ成功していると思われるエージェント契約の例は、タレントの「のんさん」(旧芸名:能年玲奈さん)くらいではないかと思われます。

 のんさんは、NHKの朝ドラなどで大活躍して一躍スターダムにのし上がりましたが、所属していた事務所から独立した際に本名でもある「能年玲奈」を名乗れなくなり、現在は「のん」の芸名でspeedy(スピーディ)というエージェントのサポートを受けています。CMクライアントはのべ55社にも及び、一部の映画でも活躍しています。十二分にエージェント契約を活用していると言っていいでしょう。

 ただそんな彼女も、前事務所との関係性が影響しているためか、テレビのドラマやバラエティではあまり見かけなくなってしまったので、どうしても「干された」感はあります。こうした例を見ると、エージェント契約とは言いながら、かつてのジャニーズのスタッフが新会社に関われば、結局、過去のようにメディアとの癒着が再発するのではないかという不安も拭えません。

 そして、記者会見で初めて見たCCO(チーフ・コンプライアンス・オフィサー)の山田将之氏。私はこの方を今回初めて知ったので、失礼な物言いになるかもしれませんが、新会社がサポートに関わるべきタレントが誰で、何人になるのかということも含め、これまで在籍者の全容を把握できなかったノーコンプライアンス状態の会社の法令順守担当を、よく引き受けたなと思います。

 また引き受けたとしても、ジャニーズ事務所の内情を徹底的に調査した上でしか、きちんとしたコンプライアンス指導はできないはずです。それを短期間で行うことが至難の業であることは、冒頭で紹介した関係者のぼやきを見ればわかるでしょう。

 それ以外にも、納得できないことはいくつもあります。危機管理担当の弁護士によると、被害実態の把握は再発防止特別チームでかなり行ったので、もう特別にやる必要がないともとれる発言がありました。被害者数さえ確定できていないのに、過去の解明をきちんと続けないとしたら、それは隠蔽にほかなりません。隠蔽は必ず新たな悪行を生みます。

 そして何より、二度目の会見でジャニーズ関係者が繰り返し謝罪していたのは、ジャニー氏による性加害であって、メディアへの圧力やテレビ局との癒着といった古い体質の改善についてはきちんと言及されていません。