エクセルなど自社製品を強みに

 2011年8月には、アップデートされたウィンドウズフォン7.5を採用したウィンドウズフォンIS12T(富士通東芝モバイルコミュニケーションズ製/au)が満を持して日本で発売されます。メトロデザインという直感的にわかりやすいUI(ユーザーインターフェイス)や、ワード、エクセル、パワーポイントといったパソコンで多用されるアプリのスマートフォン上でのスムーズな編集作業が可能になり、ユーザーからの関心は高まります。

 こうしてグローバル主要市場でウィンドウズフォンは発売され、iPhoneやアンドロイド端末への追撃体制が整いました。

 2013年にはウィンドウズフォンは前年同期比133%増と大きく飛躍します。それを支えたのは、やはりノキアでした。ウィンドウズフォンの出荷台数に占めるノキア製品の割合は7%。多くのメーカーがアンドロイドを主力OSとしたのと対照的に、ノキアはウィンドウズと全面的な協業を結び、ウィンドウズフォンOS搭載の低価格端末を開発することでスマートフォンのエントリーユーザーの取り込みに成功したのです。

ノキア買収もライバルとの差は埋まらず

 当時マイクロソフトのCEOだったスティーブ・バルマーは、この流れに乗り、2013年9月にノキアを22億ドルで買収すると発表します。ノキアのエンジニアリング・設計能力と、マイクロソフトのソフトウエア開発能力を結びつけ、ウィンドウズフォンのさらなる成長を加速させる狙いがありました。

 しかし、その後バルマーの後を継いで2014年2月にCEOに就任したサティア・ナデラは、当時を振り返り、このノキアの買収について「(マイクロソフトの)敗北を知らしめる、さらなる手痛い一例」と評しました。iOS、アンドロイドに次ぐ第三極を目指したウィンドウズフォンですが、時すでに遅し。大型の買収をしたところで、もはやその差は埋めがたいものがあったのです。買収から1年も経たない2014年7月には、ナデラはノキアの買収を失敗として認めるとともに、ノキアの携帯電話部門から1万2500人を削減、さらには2015年までにマイクロソフト全体で合計1万8000人をリストラすることを発表します。

 その後、2015年11月、マイクロソフトは起死回生の勝負に出ます。マイクロソフトの最大の資産であるパソコンユーザーを狙い、パソコンのOSであるウィンドウズ10をそのままスマートフォン向けにアップデートした「ウィンドウズ 10 モバイル」というOSを作るのです。

 標準でワード、エクセル、パワーポイントなどのアプリをパッケージした純正のオフィスモバイルを付属し、ファイル閲覧のみならず編集もできるようにしました。そして、大画面に出力してマウスとキーボードを用いてデスクトップパソコンのように使える「コンティニュアム」という機能を取り入れ、パソコンを持ち出さずにどこででもスマートフォンで仕事ができる、ということを売りにしたのです。ビジネスシーンでウィンドウズパソコンを使っているユーザーにとっては、最低限のストレスで仕事ができるスマートフォン……になるはずでした。