パソコンでの優位性をモバイルに活かせず

 しかし、パソコンとスマートフォンをつなげていこうというマイクロソフトの戦略に対して、アプリ開発者はついていきませんでした。開発したアプリがパソコンとスマートフォンで活用できれば、1つのアプリを双方に提供できるのでメリットは大きいはず。しかし、開発者たちの考えは違いました。

 スマートフォンにとっての最適なインターフェイスがパソコンにとって最適ではあるとは限りません。画面の大きさも異なれば、操作性も大きく異なります。結局、パソコン・スマートフォン双方で動く「ユニバーサルアプリ」の構想は、どっちつかずの中途半端な代物と見なされたのです。結果的に、開発サイドにとって、ウィンドウズ 10 モバイルはユーザーが限定的となり、魅力的な場にはなりませんでした。

 アプリがあまりないスマートフォンとなってしまった新しいウィンドウズベースの端末シェアは当然のことながら伸び悩みます。2016年時点において欧州主要国で2.8%、アメリカで0.8%、日本で0.4%だったものが、2017年にはさらに悪化し、欧州で0.7%、アメリカで0.5%、日本では0%にまで落ち込みました。

 そして、2019年2月、マイクロソフトは、ウィンドウズ 10 モバイルのサポートを2019年12月10日で終了すると発表しました。ウィンドウズ端末の利用者に対して、iOS、もしくはアンドロイド端末への乗り換えを推奨することで、事実上の終結宣言を行ったのです。

初期段階での遅れがすべてを決めた

 ではなぜパソコンの巨人だったマイクロソフトがモバイルの世界で勝つことができなかったのでしょうか。モバイルOSにおけるマイクロソフトの立ち回りを見ていると、どうもチグハグ感が否めません。特に、その短い歴史の中で、優位性を持つパソコンとモバイルを一体化しようという動きを何度か繰り返しますが、その都度その戦略はうまくいかずに差を広げられる結果になっています。

 パソコンとモバイルは別物。だからこそ、それぞれで勝負しなければならない。それはマイクロソフトにも薄々わかっていたことだと思います。しかし、マイクロソフトは、敢えて難易度の高い「パソコンとモバイルの一体化」で戦うことを選択しました。その背景には、マイクロソフトが置かれてしまったOS競争における立ち位置があります。

 このOSの領域は、OS対応のアプリが増えることでユーザーが増え、それがまたアプリ開発者を促進する……という循環によって場の価値が高まるという「ネットワークの経済性」がはたらく業界です。そんな業界で先んじてその循環構造を構築されると、後からひっくり返すことは至難の業です。

 したがって、iOSやアンドロイドで優位性を奪われてしまったマイクロソフトにとっては、先行者にはない別軸での優位性の構築が必要であり、それが「パソコンと連携できるOS」という厳しい打ち手につながっていくのです。

 このように、ウィンドウズフォンの歴史は、初期段階のちょっとの遅れから圧倒的な劣勢に追い込まれてしまった結果、勝ち目の薄い打ち手を選ばざるを得なくなったと見ることができます。そうであるならば、ウィンドウズフォン失敗の本質は、最初の循環構造を作ることに出遅れてしまったことにあるのでしょう。