「こんなこともできないの?」「お前はどこに行っても通用しない」。かつて上司に言われたことが忘れられず、今も肝心なときに頭の中でリフレインする。他人からの心ない言葉を繰り返し思い出してしまう……。
そんな人に試してほしいのが、『悪いのは、あなたじゃない』に書かれている「心の傷」を癒す方法だ。著者は、SNSで大人気の心理カウンセラー・Pocheさん。人間関係、親子問題、アダルトチルドレン(AC)を専門とするPocheさんのもとには、日々さまざまな人たちからの切実な悩める声が寄せられているという。
本書では、実際のカウンセリング事例をもとに、実は意外なところに存在していた悩みの原因をつきとめ、解決へと導いていくプロセスが解説されている。本連載では、そんな本書から、必要以上に自分を責めてしまうクセをほぐすヒントを学ぶ。今回のテーマは、「昔言われたことがリフレインしてしまう」という悩みだ。(構成:川代紗生)

悪いのは、あなたじゃないPhoto: Adobe Stock

10年経っても忘れられない否定の言葉

「あなたの実力じゃ、どこに行っても通用しないよ」

 これは、私が20代前半のころ働いていた職場で、先輩に言われた言葉だ。

 彼女が言うことはもっともで、手際の悪い私は仕事が遅く、まわりのスタッフに迷惑をかけることも多々あった。なんとか改善しようとがんばったものの、「仕事ができるようになった」と自信が持てるようにはならず、結局、そのままその職場を去ることになった。

 10年以上経った今、社会人としてある程度の経験を積んだおかげで、当時ほどの致命的なミスを犯すことは少なくなってきた。苦手分野も把握し、何か問題が起こりそうなときは事前に対策を打つなど、自分なりのコントロール方法も見つかった。

 しかし、それでも時折、彼女の声がふっとリフレインすることがある。目標を達成するたび、仕事でまわりから褒められるようなことがあるたび、「どこに行っても通用しない」という言葉が、鮮明に蘇るのだ。そして、「目標達成したといっても、たいしたことじゃない」「この程度のことは誰でもできる」と、自分で自分を否定し続けてしまう。

 あなたにも、こんな経験がないだろうか?

たった一度の「攻撃的な言葉」が、その後の人生を変えてしまう

 人間関係、親子問題、アダルトチルドレン(AC)専門のカウンセラー・Pocheさんの著書『悪いのは、あなたじゃない』を読んで、私は驚いた。過去に言われた言葉をいつまでも忘れられず、頭の中で繰り返し再生してしまうのには理由がある」と書かれていたからだ。

 本書では、「どうしてずっと引きずってしまうんだろう」などと自分を責める必要はない。むしろそれは、人間の脳のメカニズムを考えれば、ごく自然なことなのだと書かれている。

今もまだ忘れられないほど心が傷ついていたり、納得できないほど理不尽な言葉を言われてしまったということです。だから、あなたのせいではありません。
見知らぬ誰かから言われた言葉だとしても、たった一度しか言われたことがなくても、過去に言われた言葉が良くも悪くもその後の人生に影響を与えることがあるのです。

厄介なのは人の習性上、「良い言葉」よりも、「嫌な言葉」のほうが記憶に残りやすくなっていること。誰かから言われた嫌な言葉のほうが忘れられなくなりやすいのです。(P.158)

 生きづらさを抱える人の多くは、「どうして自分はこんなことで悩み続けてしまうんだろう」と、自分自身を繰り返し責めてしまう。

 過去に言われた言葉を何度も思い出してしまうのもそうだ。本当は意外なところに原因があるにもかかわらず、「自分の心が弱いせいだ」と考えてしまう。

 これは、私のように「事実を指摘されたから傷ついた」「自分が気にしていることを指摘されたからショックを受けた」というケースだけに当てはまることではない。否定的な言葉が事実でなかったとしても、あるいは、特段気にしていることではなかったとしても、記憶に残りやすくなってしまうことはあるそうだ。

 たとえば、SNSに何気なくアップした写真に、見知らぬ人から外見を揶揄するコメントがあったとする。それまではいっさい気にしていなかったとしても、「歯並びが変」などと言われると、「おかしいのかな?」と、突然それがコンプレックスになってしまうこともあるだろう。

脳は「よく分からないもの」を放置できない

 さて、それではなぜ、このような「リフレイン」のクセが発生してしまうのか。

 それは、脳には「よく分からないこと」を繰り返し考え続け、なんとかして「分かる」状態にもっていこうとする習性があるからだ、とPocheさんは語っている。

1ピースだけ埋まっていないパズルが気になるように、「チョコレー◯」など空白部分を埋めたくなるように……自分の本当の感情を知らない状況というのは、脳にとって「よく分からないもの」が残ったままの不快な状態なのです。この不快な状態をなんとかしようとして、嫌な記憶がリフレインしてしまいます。(P.162)

 Pocheさんはさらに、「リフレインする言葉がある場合というのは、自分の本当の感情をうまく出せていないことが多い」と綴っている。

 たとえば、Pocheさんのもとを訪れた相談者の中にも、心ない言葉をぶつけられたとき、「なぜそんなことを言われたのか」「見ず知らずの人にどうしてそんなにひどいことを言われなければならないのか」と、半ばパニック状態になってしまっている人もいたそうだ。

 言われてから数年経っても、その言葉を思い出しては、当時とまったく同じように混乱してしまうのだという。

 つまり、過去に言われたことを何度も思い出してしまうのは、「どうしてあんなことを言われたんだろう」「もっとこうすればよかったのではないか」という混乱状態がずっと続いているからなのだ。

リフレインの頻度を減らすためにもっとも大事なこと

 私の場合もまさにそのとおりで、「仕事ができない私が悪いのだから、指摘してくれた先輩に感謝するべきだ」という考えと、「いや、それにしてもあんなふうに怒鳴ったりしなくてもよかったのではないか」という怒りが、心の中で何度も行ったり来たりしていたのだと、本書を読んで気がついた。

 このように、本来ならば怒りを感じるべき場面であっても「怒り」を抑え込んでしまい、自分が怒っていることに気がつかない人も多い。そういう場合は、自分自身の心の底に眠っている「怒り」や「悲しみ」といった本当の感情を見つけてあげることで、リフレインする回数も少なくなっていくそうだ。

リフレインの頻度を減らすために重要なのは「混乱する」に隠された自分の本当の感情を知ることです。(中略)
自分の本当の感情に気づくことができれば、「よく分からないこと」が「分かる」に変わります。すると、その記憶を思い出す頻度そのものが減るというわけです。あなたが過去に言われた心ない言葉が頭の中でリフレインする時には、どのような感情が出てきますか?(P.162-163)

 攻撃的な言葉を言われたときの混乱状態が、今もまだ続いてはいないだろうか。「本当は言い返したかった」「理不尽なことを言われ、悲しかった」「そこまで言う必要はない」など、隠されている本当の気持ちを掘り起こしてみよう。

「他人に言われたことなんか、気にしない!」といきなり気持ちを切り替える必要はない。まずは、自分自身に歩み寄り、理解すること。

 現役の心理カウンセラーであるPocheさんの語りかけるような優しい言葉たちが、その手助けをしてくれるはずだ。