今年10月25日にデビュー50周年を迎えたシンガーソングライターのさだまさしさん。同じ國學院高校落語研究会の後輩で元制作マネージャー、45年もの交流がある松本秀男さんによると、アンオフィシャルな場でのさださんは、周りのスタッフをいつもほめてくれる「ほめる達人」「言葉の達人」だといいます。松本さんの近刊『さだまさしから届いた見えない贈り物』(青春出版社)から一部抜粋・編集して、今すぐマネしたい「周りを幸せにするさだまさしさんの口癖や言葉の習慣」についてご紹介します。

もらって嬉しい「言葉のプレゼント」

 ふいに誰かからプレゼントをもらうと、嬉しいものです。言葉のプレゼントも同じ。目には見えないけれど、しっかりと心に届きます。

さだまさしさん周りを幸せにするさだまさしさんの口癖や言葉の習慣とは? Photo:Masashi Hara/gettyimages

 日本ほめる達人協会(通称、ほめ達)の顧問として、全国でほめることをお伝えしてきた私がおすすめしているのは「20文字のプレゼント」。普段の会話やメールやLINEで、多くても20文字でいいので、言葉をプレゼントしてみましょうというもの。

 さださんはまさにこれを地でいく人でした。無意識にそれをされていたのだと思います。ちょっとした短い言葉のプレゼントを、いつも惜しげもなく周りの人たち配ってくれます。

「それ、すっごい面白いと思う」「最高だね! 完璧だわ!」

「よくここまで仕上げたねえ、やるもんだなあ」「美味い! 絶品!」

 ほんの20文字や5文字や1秒、そんな言葉をもらえるだけで、私たちは元気になれます。逆に言うと、そんな20文字や5文字や1秒を出し惜しみする人の周りでは、私たちの心の温度はじわじわと下がってしまうのではないでしょうか。

 昔、四谷二丁目交差点を入ったところにあった文化放送のレギュラー番組の収録前に、よく表通りのそば屋さんから出前を取りました。さださんは決まって「たぬきうどんと半ライス」でした。絶対にそれしか頼まないので、出前をとる際に私は「いつものたぬきうどんと半ライスでいいですか?」とたずねると、

「いいねえ。ありがとう。分かってるねえ、君は!」などと言ってくれます。もう50回くらい頼んでいるのに。そんな当たり前なことにまで感謝してくれる。

「うん」や「いいよ」で終わらせずに、「分かってるねえ、君は!」と言葉のプレゼントをくれる。またまたこちらも張り切ってしまうわけでございます。

「何やってるんだ!」と怒りたいときは「そうくるか!?」

 ほめる達人だって、カチンとくることもあります。相手に「何やってるんだ!」と言いたくなるシチュエーションだってあります。そんなシチュエーションでおすすめしているのが「そうくるか!」。

「何やってるんだ!」という時には、「そうくるか!?」「そうきたか!?」でいったん受け止める。なるべく脱力する感じで言うほど効果が上がります。これを言うと、いったんこちらの怒りのガス抜きができます。「まさか、そっち~?」とうなだれる。ではこの相手にどのように伝えたらいいだろう? と、少し冷静に、客観的になれる。

 私は若い頃、さださんにもずいぶんとこれ系のセリフを言わせておりました。寝坊もありました。ある時私が早朝さださんを迎えに行き、車で羽田へ向かう予定がありました。ところがその朝私は、さださんからの電話で目を覚まします。やば!

「おいおいそうきたか。寝ていやがったな」

 私が支度をして迎えに行っても間に合わないので、さださんが車で私のアパートに迎えに来てくれます。木造アパートにベンツ横付け。「乗れ!」と助手席に乗って羽田へ。アーティストに運転させて走る晴れた海沿いの首都高速……その景色のなんて美しく、つらかったこと。

「お前らも、休みもなくやってくれているからな」

 さださんは言わば上司。というか当時の事務所の社長でもあります。失敗してもそんな言葉をかけてくれて、フォローまでしてくれる。自分が部下を持ったらこんな風にできるのだろうか? と当時ふと思ったこともあります。

 秋田県民会館でのコンサートの時のこと。その頃も本当に過密スケジュールで、さださんはかなり疲れていました。秋田の翌日は山形県県民会館でのコンサートです。隣の県とはいえ、移動に3時間以上かかります。本当は翌朝列車で移動だったのですが、終演後にタクシーで山形へ移動しておいて、さださんには山形のホテルでゆっくり寝てもらおうとなりました。

 ただ、当時のタクシー事情は今とは違いシートなどが快適とは言えません。3時間以上の移動はつらい。楽屋でさださんが、「首枕とか、手に入らないかなあ」と呟きます。

 当時のマネージャーは若手三人体制。チーフの廣田さんと、制作担当の私と、付き人的な田村くんの「さだ企画三バカ」と呼ばれていた時代です。その秋田には廣田先輩と私が付いておりました。

「わっかりました~!」と、廣田先輩と私が楽屋を飛び出しますが、さあ大変。当時は海外旅行などでしか使われなかった空気で膨らます首枕(ネックピロー)。東京でもなかなか手に入りません。それを地方都市の夕暮れ時に見つけることができるのか?

 現地のプロモーターの方も「見たことないですねえ」と予想通りの答え。廣田先輩と手分けして、閉店前の百貨店に飛び込んで聞いてみても見つからず。それでもあきらめないのが芸能マネージャーですが、マネージャーだけどもやはり三バカと呼ばれた本領を発揮してしまいます。

 秋田県民会館は城跡にあります。ちょうど桜祭りの頃、夜店がたくさん出ています。そしてある夜店にふたりの目が釘付けになりました。そしてお互いに目を合わせます。「ないのなら、似たようなもので……」