先行きが見通せない時代に、確実に実績を叩き出す会社は他の会社と何が違うのか。『ユニクロ監査役が書いた 強い会社をつくる会計の教科書』の安本隆晴氏と、『強い会社の「儲けの公式」~AKB48、ユニクロから青山フラワーマーケットまで、あのビジネスはなぜ成功しているのか』の村井直志氏の公認会計士対談。会計士だけが知っている強い会社の秘密、実は「経営理念」が重要だったのです。
利益だけを意識しても
「強い会社」にはなれない?
村井 決算数字が良ければ企業の評価は上がりますが、財務指標ばかりを意識していると必ず弊害が起こります。本当の意味でも健全な経営をしている企業、つまり「強い会社」とは、数字を良くするだけでなく、確固たる経営理念や、企業としての高い志を持っていることが重要だなと思うんです。京セラ創業者の稲盛氏はJAL再建にあたり、まず幹部社員の意識改革を最優先したこともうなずけます。
例えば、私の本『強い会社の「儲けの公式」』で紹介した青山フラワーマーケットには、(1)成長、(2)チャレンジ、(3)お客様への貢献、という3つのルールがあり、これらはバランス・スコアカード(Balanced Scorecard)の理論に通じています。財務の視点とともに、学習して成長する気持ちや業務に対する意識を向上させ、顧客満足度を上げていく。こういった財務以外の視点を持つことで、結果として売上や利益にしっかりつながっていくわけです。
安本 そう思いますね。ユニクロの基本は、「made for all」という言葉に全部集約されています。文字通り、年齢層などのターゲットを決めずに、全ての人に向けてつくっています。
アップル社のジョブズ氏は、「みんなが使える素晴らしい商品をつくれば必ず売れる」と言っていますが、ユニクロの「made for all」もそれとよく似ていると思います。
村井 先日、新聞記事に掲載されたイチロー選手のインタビューが印象的でした。誰かの「ために」というよりも、誰かを「思い」何かをするほうがいい。見返りを求めることもなく、そこには愛情が存在しているから不幸な結果になることは少ないと語っていました。このイチローの哲学は、企業の経営理念にも通じるものだと思いましたね。
安本 成功した経営者の方々とお話をすると、みなさん経営哲学をしっかり持っているのが分かります。
最近、サイゼリヤ創業者の正垣氏の著書を数冊読みましたが、彼は「本当にお客様のためになるのか」という視点を常に持ち、低価格メニューで飛躍的に店舗を拡大させてきました。原価を下げたら売値も下げる。これを継続して実行していくのは簡単なことではありません。
また、テーブルをきれいにする拭き方のマニュアルをつくったのも、店員全員が正垣氏の言う“きれいの定義”を共有するのが目的でした。行動基準を細かく決めれば、店員たちも徹底してできるようになるからなんですね。