「1つの目には2つの目だ!」
「屈辱に対してはすべての歯だ!」

 ユダヤ人たちが19世紀末に起こした政治運動「シオニズム」。シオニズムは、ユダヤ人の民族的アイデンティティーを再確立し、彼らの歴史的故郷である「約束の地」に独自の国家を建設することを目指すものだった。

 シオニズム運動の父とも称されたテオドール・ヘルツルは、ユダヤ人が自らの国家を持つことによって、欧州での反ユダヤ主義や迫害から解放されると考えた。平和主義者としても知られ、ユダヤ民族国家は武器を絶対に使わないことで、隣国のアラブの強国たちからも評価を受け、共存できると信じた。

 しかし、現実はそうはならなかった。数々の反ユダヤ主義者による暴動や攻撃に直面したことで、いつしか運動の参加者は積極的な自衛手段に出るようになった。多くのユダヤ人たちも「自衛するユダヤ人」へと考えを変えた。この姿勢は、ナチの首謀者の追跡と処罰、テロリストの処罰、他国の軍事行動には軍事行動で反撃するという行動に表れた。

「おぉ、イスラエル!1つの目に1つの目ではない!1つの目には2つの目だ!そして、なんであれ屈辱に対してはすべての歯だ!」(フレデリック・アンセル著『地図で見るイスラエルハンドブック』)

 この言葉を残したのは、ロシア生まれのユダヤ人作家、ヨセフ・ハイム・ブレンナー氏だ。現在のイスラエルの軍事的思考は、全ての攻撃に対して、一対一で反撃を加えることだ。古代バビロニアのハンムラビ王によって制定されたハンムラビ法典の「目には目を、歯には歯を」という一節を思い起こさせる。この作家のフレーズも、この「目には目を…」を連想させるものであろう。

 現在の戦争の最中、ガザ地区のアハリ・アラブ病院での「何者」かによる空爆で市民を含む500人近くの人が死亡した。イスラエルは、自国の関与を否定しており、米国の情報機関もその主張に追随しているのだが、イスラエルが空爆前に繰り返し警告を発していたことから、イスラエルが悪いと確信しているアラブ諸国の人々の怒りを買っている。

《土曜日の攻撃後に投稿され、「ニューヨーク・タイムズ」が検証したビデオには、病院内の被害が映っていた。その映像には、がれきの中に砲弾の残骸も映っていた。パレスチナの武装集団は通常、イスラエル国内を攻撃するために長距離砲ロケット弾に頼っており、この種の砲弾を発射する榴弾砲を使用した記録はない。しかし、イスラエルはパレスチナ地域内を攻撃するために榴弾砲を使用するのが一般的である。シェフラー大佐は、イスラエル国防軍による土曜日の攻撃の責任を否定した。シェフラー大佐は、病院は標的ではなかったと述べた》(米紙「ニューヨーク・タイムズ」、23年10月18日)

 情報戦の真っただ中だが、これ以上紛争がエスカレートしてもイスラエルにとって良いこともなかろう。イスラエルを攻撃すると倍返しされることも、今回の件ですでに世界中が、隣国が、あらためて理解できたことである。今後の抑止力としては十分だ。

「中東で唯一の自由民主主義国家」と評されることもあるイスラエルが、軍事目的を追求する中であっても、怒りや復讐心によって道徳的義務を損なうことは許されない。

 ハマスが無法集団であることは自明であるし、ハマスがイスラエルを抹殺する態度を崩していないのも批判されて然るべきだ。とはいえ、極東アジアには「ソウルを火の海にする」「日本に核の雨を降らす」などといってはばからない国が存在するが、その国と私たちは交戦状態にはない。イスラエルは、もう少し同盟国や友好国、国際機関の言葉に耳を傾けるべきだ。ハマスによるガザ支配の排除は、ガザを荒野にしなくても達成できるものであるはずだから。