ライバル行の預金課長が
アポなしで来社
「課長、三星銀行の預金課長がお見えです。課長にお会いしたいそうです」
総合受付に立つロビー担当が、インカムを通じて伝えてきた。
「三星銀行?いや、アポはないけど」
「お約束ではないとのことです」
「なんだろう?」
みなとみらいエリアの中で、同じ支店名で営業する競合相手だ。営業担当時代は、お高くとまる三星銀行にいい思い出がなかった。
支店エリア内の事業者数は限られており、各行はあの手この手で競合行から事業者への融資を横取りする。私の場合、どの支店に異動しても、自分が融資を担当する顧客を三星銀行に横取りされていた。私の居場所を知られているんじゃないか?監視カメラでも付いているんじゃないか?と被害妄想になったこともあるくらいだ。
営業担当時代は敵同士だったが、預金事務担当になってからは話が違う。振り込み取引や手形小切手の実務においては、商慣習を超えた助け合いの精神が重要となることが度々ある。互いの銀行で定められた手続きを守っていると時間がいくらあっても足りず、課長の現場判断で異例な対応を取り合うことがある。実務を知らない支店長様にはなかなか理解ができないことだろう。
「代理?今からB応接で三星銀行の課長と会う。インカムつけておくから、急ぎの用があれば連絡してくれないか」
「三星銀行?なんでまた?連休明けで朝からお客さん多めです。早いとこ切り上げて下さいよ」
「はいはい、分かりましたよ」
預金担当課の吉川課長代理は、私の右腕だ。活躍しているし頼りにしているが、いつも一言多い。