「誤解される方が厄介だろ」
支店長のあきれた言い分

 三星銀行はどう対応しているのか、矢嶋課長に電話で確認したところ、窓口では手の空いた者が総出でロビーに立ち、来店客の整理と説明にあたり、ATMは既に他行振り込みできないよう設定を切り替えたそうだ。三星銀行は対応が早い。そんな頃、支店長が預金担当課のフロアに下りてきた。

「目黒課長、メールは見たか?リストにうちが入ってなくてよかったなあ。たまにはいいこともあるもんだ」

 想像通りの反応だ。

「支店長、リストにはありませんでしたが、三星銀行宛ての振り込みを止めなくてはいけませんね。来店した人には説明すれば分かってもらえますが、支店外の街中にあるATMや、インターネットバンキングで振り込みする人に対しては説明できません。なんとかしないと…」

「それはさあ、うちの責任じゃないよなあ」

「せめて利用頻度の高いATMには応急的に貼り紙をした方がいいと思うんです。でないと知らない利用客が三星銀行へ振り込みをしてしまい…」

「うちが慌てて動かなくてもいいんじゃないか?そんな貼り紙とかしたら、まるでうちのシステム障害みたいだぜ。そう誤解される方が厄介だろ?支店で勝手に貼り紙したとか言われれるのも嫌だしな」

 午後になって、やっと本部によるポスターが出来上がり、支店外のATMに掲示するよう指示があった。三星銀行が全ATMに掲示してから、実に4時間以上の後れを取っている。三星銀行は自らのミスやシステム障害ではなくとも、利用客の立場に沿った行動ができている。

 2日かかって障害は復旧。今は何事もなかったような日常を取り戻した。世の中も同様だった。もしも今回の一件が一銀行のミスで起きたことだったら、とことんたたきまくられただろう。

 復旧の知らせを受けた日、矢嶋課長から電話があった。

「目黒課長ですか。障害、復旧しましたよ。えっ?知ってる?ご存じないかと思って電話しちゃいました。ほら、おとといも御行の本部から聞いてないって言っていたから、またそうかと思いまして」

 それは間違いなく矢嶋課長の本心だろう。私が何も知らされていないと心配までしてくれている。いや、バカにされているだけかもしれないが。