グループトークに参加してきた小方も莉々も、同調する言葉が続いた。

「やっぱ目を放射線にして、金キラの王老五(ワンロウウ=玉の輿)を見つけるしかないね」
「そうよそうよ。でも私たちの環境じゃね……」
「写真でお嬢様を見習ってみたらいかが?」

 そんな一文に続き、古写真が数枚アップされた。小方からだった。

 モノクロの写真。民国時代(1930年代)上海灘で名を馳せた名家のお嬢様たちのものだ。コの字で顔を区切った黒髪といい、チャイナドレスの上等のシルク生地といい、俗世に汚れていない育ちの良さが清楚な目鼻立ちに漂い、写真は歳月の黄ばみによっていっそう味わい深いものになっていた。

「上海名媛(ミンユエン)」

 蝶々には甚だ新鮮な言葉だった。夜更けにチャットが終わって、なかなか眠りつけない彼女は、「名媛」を検索した。

 ずらりと並んだ検索結果から、彼女の視線は一瞬「名媛招待状」の文字に惹(ひ)かれた。開いてみれば、優雅にお茶を飲む民国風に装った数人の美女の写真に、

 高級アフタヌーンティーを楽しみ
 五つ星ホテルのスイートルームに泊まり
 世界一流のブランド品を身にまとい
 交友は、トップの金融エリートやネットセレブ
 あなたも仲間入りしませんか?

 の文言が添えてあった。

 したいしたいと、目が釘付けになった蝶々。布団から起き上がって、それを友だちグループに送った。

「嘘でしょ。500元(1万円)の入会費を払うだけで名媛になれるなんて」
「そんなの詐欺に決まってる」

 莉々も小方もすぐ反応した。

「あなたたち、入会していないのに、なぜ嘘とか詐欺とか言うの?」

 蝶々は不愉快な口調で反問し、「500元、それほど高い金額ではないし、騙されるつもりで、払って会員になってみても良いかな」と、自分の考えを打ち明けた。

「けど、アリペイに10万元の残高があるという資産証明も必要だってよ」
「ないから、今あなたたちに相談してるんじゃない」

 蝶々は、「悲しい顔」の絵文字を連打して送った。