中国の“フツーの人たち”が引き起こす、荒唐無稽な事件を、芥川賞作家の楊逸が選りすぐって紹介します。上海に上京し、化粧品販売の仕事に就いた蝶々(ディエディエ)は、給料の半分を“映え写真”につぎ込み、SNSにアップしていました。ある日、参加費が6万円のパーティーのお知らせに目が留まる……。
5月、「名媛群」に「有名エリート金融家に会えるパーティー」の知らせがアップされた。滅多に会えないという大物のため、会費が3000元(6万円)。
「チャンスが来たね。参加して金キラの王老五(ワンロウウ)でも釣れたら、出稼ぎの苦労ともおさらばだね」
「3000元は高すぎよ。そんな大金一度に使い込んで、引っかかってくれる人がいなかったら残りの半年はどうやって暮らすの?」
莉々は顔をゆがめて躊躇(ためら)った。
「2時間3000元ね……あああたしその日出張でいないんだ」
本当かどうか小方も、体(てい)良く断った。
ふ~ん。親友の二人にあきれた蝶々は一人で参加することに。
金融パーティーの会場には、女の子ばかりの名媛撮影会と違って、男性も多く参加している。金キラの王老五を釣るつもりで、蝶々は腕からエルメスの高級バッグをぶら下げ、ワイングラスを片手に、獲物を物色し始めた。
するとちょうどこちらを見ている、英国紳士風の背広に身を包んだ背の高い男性と目が合った。
「カッコいい」
男性は彼女に微笑みかけると、そっと近づいてきた。今日のために紳士ブランドを散々チェックして覚えた彼女は、目の前の男の身なりをさりげなくチェックし、背広の中のシャツもネクタイもやはり有名ブランドであることを確認。
「陳と言います。良かったらワインをもう一杯いかがですか」
「ええ。ありがとう。蝶々です。金融に興味があって……」
美男美女という二人。目の色で同じ目的だと通じ合ったので、互いをWeChatの友だちに招き入れ、話すと気が合ってしまった。
蝶々はトイレに行ったついでに、陳のSNSアカウントもチェックしてみた。
写真がずらりと並んでいた。金持ちの二世のようで、自身も会社を経営していて、休日は海外旅行、ゴルフ、ダイビング、ヘリコプターの操縦など、普通の人では手の出せないような贅沢な趣味を楽しんでいる。
写真の中の陳は、服にせよ嗜好品にせよ車にせよ何もかも高級品で、欧米のファッション雑誌に登場するモデルに負けないカッコ良さだ。
トイレから再び陳の傍に戻ると、二人の会話は更に盛り上がって、パーティーが終わっても止まることなく、話しながら一緒に外に出た。
「送るよ」
陳は蝶々を近くの駐車場まで連れて行き、白いBMWのところで立ち止まった。
「嬉しい」
蝶々は素直に喜んで、BMWに乗り込んだ。
「あ、そういえば僕、ワイン飲んでたんだよね。アルコール覚ましにコーヒーでもご一緒にしませんか?」