日本の高級ホテルでは満足しない、宿泊施設は自前で開発

 ところが、23年現在、日本のインバウンド市場は、コロナ禍前まで主流だった「中国一辺倒」から一転している。10月の中国からの訪日客も25万6300人と、19年の73万631人から64.9%も減少した。(数字は日本政府観光局)

 今年8月に行われた処理水の海洋放出などが影を落とし、送り出す国・地域で見ると中国は19年のトップから、現在は韓国、台湾に続く3位に落ちた。しかしそれでも中国資本は、日本のインバウンド市場に熱い視線を送っている。

 都内の国立大学で研究職に従事する程燕さん(仮名)は「両国の政府間は冷え込んでも、中国には一定数の『日本ファン』がいます。日本のアニメを見て育った層や日本ならではの静寂な空間の愛好者がそれで、『好きだ』という感情はそれだけで訪日の強い動機になるのです」と前向きだ。

 振り返れば、12年9月の反日デモで落ち込んだ中国からの訪日客も14年の春節には勢いを取り戻しており、今回の「落ち込み」もいずれ回復するという見方もできる。

 そんなアフターコロナのインバウンドでは、中国の事業者が日本の土地を購入し、自ら開発したホテルや民泊に中国人富裕客を宿泊させるという傾向が表れている。すでに数次ビザ(有効期間内であれば、日本への渡航に繰り返し使えるビザ)を取得している富裕層は、日中間を比較的自由に往復できる存在でもある。

 長野県には、高級感と規模感の両方を備えた中国資本による宿泊施設が出現した。スイスシャレー風のぜいたくなコテージは1泊20万~30万円ほどだが、1棟当たり10人の収容が可能で、ゆったりとくつろぐことができる。

 ここに宿泊したことがある上海出身の馬哲さん(仮名)は「世界を旅してぜいたくを知った富裕層は、もはや並大抵の施設では満足せず、さらに“その上”を求めるようになっています」と語る。

 中国国内の5つ星級の宿泊施設はすでに、客室の広さ・設備・豪華さ・料理の品数では日本の宿泊施設を凌駕しているといわれているが、目の肥えた中国人富裕層は既存の日本の宿泊施設に満足しなくなっているのかもしれない。

 また、人目を気にして小さくなることを嫌う中国人は、“中国人による中国人のためのサービス”に安心感を持つ傾向が強い。

 馬さんが「初めは日本の割烹や高級すし店の格式に興味を持っても、次第にそれを窮屈に感じるようになる人もいます」と話すように、中国人にとってより心地よい施設を「自前で開発する」という動きは一段と進む気配だ。