一匹の龍のように産業チェーンをつなげる中国資本
コロナ禍前のインバウンドでは、多くの中国人訪日客を乗せたクルーズ船が日本各地の港に着岸した。筆者もコロナ禍前に鹿児島港を訪れたが、そこで驚かされたのは、下船して上陸してくる訪日客を待ち構えるのは中国系の旅行会社やバス会社で、従業員のほぼ全員が中国人だったということだ。
このような現象について中国事情に詳しいエコノミストは「観光バスに乗車した団体訪日客が、中国資本の飲食店や免税店などに連れていかれるのがそうであるように、日本に上陸した中国人訪日客を自分たちのエコシステムの中で完全に囲い込むのが中国系の特徴です」と語る。
クルーズ船のチャーターに始まり、バス会社や免税店、ホテル、飲食店と川上から川下までの行程で中国人訪日客を一網打尽にするビジネスモデルは「一条龍(イーティアオロン、一匹の龍)」と言われる。このようにして日本のインバウンド市場は、数社の中国系大手旅行会社とその下にぶらさがる中国系サービス業者が、日本の市場を一網打尽にした。
さらに驚くべきは、こうした中国系旅行会社は日本だけでは飽き足らず、海外にもネットワークを拡大させていることだ。
インバウンド向けのホテル事業に携わる大鹿淑子さん(仮名)は「東南アジアはもとより、アメリカやカナダの在外華僑を訪日旅行に送り込んでいるのは、今や現地の旅行会社ではなく中国資本の旅行会社です」と明かしている。
日本に到着した訪日客の消費を先取りして商品化する「一条龍」には、航空券とともに空港到着後の出迎え交通手段を販売する“白タクサービス”も含まれる。「友人を迎えに来ただけだ」との言い訳で、白昼堂々と横行する違法行為を警察が取り締まれないでいるのは既報の通りだ。
ちなみに、イタリア各地でも中国人事業者による白タクが問題になっており、コロナ禍前は厳しい取り締まりが行われていた。現地メディアによれば、イタリアでは白タクは法律違反であり、最高112万円(1ユーロ=約160円)の罰金とともに運転免許証も取り消されるという。