地理的条件を逆手に取った「バス移動の時間」のエンタメ化

──クラブの経営という面では2022年、売り上げをコロナ前へ戻していくという想定ですか。

そこは戻していかなければいけない、と思っています。ただ東日本大震災の時(2011年)も、震災前の水準に戻すには4〜5年かかりました。何もしなければ今回もそれくらいの時間を要すると思っています。

まずは離れてしまったファン、サポーターを早期に取り戻す。既存のファンをもう一度振り向かせることができてから、新規ファンの獲得も考えていかなければいけないと思っています。やはり今までのコアファンを大事にし、スタジアムの熱狂を復活させてからが勝負だと思っています。

──鹿島アントラーズは東京近辺にファンが多いのも特徴です。コロナ前のカシマスタジアムで試合がある日は、東京駅に赤いユニフォームを着ている人も多くいました。ですが今は、コロナ禍で東京駅から高速バスで2時間弱かけてカシマスタジアムに通う人は少なくなったような気もします。

オンラインでの視聴も一般化してますし、スタジアムにいかに足を運んでもらえるかは重要な課題です。そういう意味では「バス移動の時間」もエンタメ化したいと思っています。クラブ内のセールスチームとも話しているのですが、1時間半〜2時間も同じ趣味を持った人たちが同じ空間にずっとい続けるのはまれじゃないですか。そこで過去の試合を見たり、パートナー企業製品のサンプリングやアプリの紹介などのアクティビティを入れたりすることもできるのかな、と思います。

また、移動中は時間もあるのでWi-Fiを提供し、そこに広告を流してプロモーションすることで、企業のサービスやアプリのCPA(顧客獲得単価)を効率化できるかもしれない。さまざまな企業と連携して、将来的にはバスでの移動コストも下げていきたいです。都心から遠い点が立地的に不利だと思われがちですが、その分、小旅行的に早く来て楽しめる場所を設置したり、バスの移動時間を楽しめるようにしたり、地理的条件を逆手に取ってやれることはまだまだあるんじゃないかなと思います。

──来場する魅力を伝える手段として、何か取り組んでいることはありますか。

ウェブサービスなどでは一般的な「カスタマージャーニー(顧客が商品やサービスを知り、購入・利用意向をもって実際に購入・利用するまでの道のりのこと)」をサッカーチームにも当てはめて考えています。

具体的には試合の前々日くらいからワクワクさせ、当日の朝の移動でどう楽しませるのか。スタジアムに来てからもスタジアムグルメやグッズ、子ども向けイベントも含めて、どう楽しんでもらうか。そして試合後のバス移動、帰った後の次の試合のチケットをどのように買ってもらうのか。サッカーの試合自体は2時間ほどですが、カスタマージャーニーは長いので、ここに向き合うことで一連の体験価値は上がっていくと思います。