スタートアップは、短期的な外部環境やテーマを追っかけて右往左往するよりも、“十年の計”で腰を据えて大きな流れを捉えるのがよいと考えます。また一方ではスタートアップ間の大競争時代も幕開けとなり、成長することを狙って“大振り”をするか、退出するかを迫られることになるでしょう。

具体的なテーマとして言えば、バーティカルSaaSは引き続き短期的に追うべき領域の1つとなるでしょう。しかし2021年のように、極論すると「SaaSなら何でも高値が付く」という状況ではなくなります。株式市場ではすでに始まっているSaaS銘柄の調整が未上場にも波及し、勝ち組、負け組の選別が起こるはずです。そして勝ち組のロールアップ(M&A)による規模拡大とトータルスイート化が進み、そのカウンターとなるかたちで、新規スタートアップはバーティカルSaaSで特定業界の特定業務に最適化を強める流れとなるでしょう。

ですが「バーティカルに絞ると対象市場が小さくなる」というジレンマは依然として存在します。メディア事業で総合型メディアが出てきた後、美容の「アットコスメ」や料理の「クックパッド」がバーティカルでありながら大きな市場を席巻したように、バーティカルSaaSでも「偉大なるニッチ」を寡占化することが主戦場となります。特に数十兆円規模の市場を誇る自動車、金融、建設、不動産、医療などは、既存企業のDXを後押しするかたちで、デカコーンを輩出するチャンスがあります。

加えて言えば、資本市場の要請からはじまったESG(環境・社会・ガバナンス)も大企業のDXを推進する上で重要な視点となります。ESGの評価基準とレポーティングの仕組みの確立、企業のバリューチェーンや個別業務をESGに準拠した形に組み替えるなどが機会として浮上するはずです。

──Web3やメタバースといったキーワードを耳にする機会も増えました。

BtoCでは、長期的に見ればWeb3、NFT、メタバースといった大テーマが控えています。それらのテーマがどのような完成形になるかというビジョンは、具体的にはまだ見えておらず、乗り越えるべき技術課題も多くあります。“2022年だけ”という短期を見れば、一足飛びに想像もし得ない未来に非連続にジャンプするというよりは、まずは現状見えている課題の解決や現状のサービスの延長線上に新しいテクノロジーが応用されていくことになるでしょう。ブロックチェーンのスマートコントラクト(契約の自動化)やインターオペラビリティ(相互運用性)といった領域では、一足先に代表的なアプリケーションが見つかるのではないでしょうか。