「研究者への寄付を通じて、新しいサイエンスとテクノロジーの力が世界を変えていくのだと感じましたし、そこに対するリスペクトの気持ちが強くなりました。その上でどのようなエコシステムを作れれば世界がもっと良くなるのか。それを考えていた時にEast Venturesと出会ったんです」(渡邊氏)

East Venturesでのアルバイトを通じてVCの仕事の面白さと同時に、VC自体も成長産業であることを知った。そこからVCとしてのキャリアを志し、現在に至るのだという。

近年は国内外でもディープテック系のスタートアップへの投資が盛り上がり始めている。特に脱炭素や気候変動領域はその代表格で、領域特化型のファンドも生まれてきた。

一方で資金の供給量が増えても、一気に研究畑出身の起業家が増えるとは限らない。そのギャップを埋める可能性を持っているのが若い研究者であり、「エクイティファイナンス」という仕組みを活用しながら、彼ら彼女らが起業に挑戦しやすくなる環境を作るのがHERO Impact Capitalの1つの役割でもある。

「この数年、研究開発型スタートアップへの投資をやってきた中で、創業前の支援がすごく重要だなと感じました。特に『アカデミックな観点での良い研究』ではなく、『社会実装や事業としてインパクトを作る上での良い研究』とは何かを一緒にデザインしていくことに大きな価値がある。そこをシードラウンドのVCとして支援していきます」(渡邊氏)

HERO Impact Capitalでの活動は、渡邊氏のこれまでの活動の集大成のようなものになる。若い研究者に資金を提供し、会社を立ち上げる前後から一緒にチャレンジをする。加えて若手研究者へ寄付をする財団や、投資先をハンズオン支援する研究所を設ける計画。この財団にはファンド運営の成功報酬の一部を分配することで、次世代の研究者へ資金が循環する仕組みを作っていきたいという。

「これまでを振り返っても、若い研究者が新しい科学技術の未来を作ってきたと考えています。地球課題を解決する方法にはいろいろなアプローチがありますが、自分たちとしては若い研究者にフォーカスをして、地球課題と資本が重なる点を作っていくことでインパクトを出していきたいと思っています」(渡邊氏)