これはコストベース・プライシングの考え方を捨てるということではありません。製造や流通にかかるコストを踏まえて利益が出せる売り手の都合と、支払った額に対して高い満足度や価値を得られる買い手としての都合、この2つが折り合うポイントを改めて探っていくということです。

コストベース・プライシング/バリューベース・プライシング
 

 

顧客にとって自社の商品の価値を改めて定義・分解できたら、その差異に合わせてより細かな価格提案を設計していきます。経済学の用語で「価格差別」と呼ばれる考え方です。この言葉に一般的な「差別」の意味合いはなく、異なるセグメントの顧客や異なるニーズのある顧客に対し、同一商品を違った価格で提示していくということを指します。身近な例としては、映画館の料金が挙げられます。大人料金・子ども料金・シニア料金やレイトショー料金などの区分があり、映画という同じ商品に対してさまざまなメニューが設定されています。これも価格差別です。

また、大量に発注してくれるお客様に対してボリュームディスカウントをするという考え方も同様です。SaaSなどのソフトウェアビジネスであれば、利用ボリュームや使える機能別に複数のプランを設計することが定石となっています。

価格差別の具体例
価格差別の具体例

 

顧客の特徴についての理解度が高まれば、次に検討するのは、料金体系の見直しです。このとき、つい「料金をいくらにするべきか」ということに目が向いてしまいがちですが、料金そのものよりも、料金体系の変更の方がインパクトが大きいのです。

例えば、最近はNetflix、Amazonプライム・ビデオ、DAZNなどの動画配信サービスの月額料金変動がニュースになることがあります。しかし、こうしたサービスの真のイノベーションは、動画視聴を従来の「都度レンタル」料金から「見放題のサブスクリプションサービス」へ料金体系を変えたことにあるはずです。料金自体を変更する前に、顧客ニーズに基づいた料金体系を検討していくことから考えていきましょう。

価格の因数分解
 

プライシングのPDCAの回し方

ハルモニア代表取締役 松村大貴氏
ハルモニア代表取締役 松村大貴氏

プライシングは永続的な取り組みです。最適な価格が1つ出てきて、それをずっと使い続けられれば良いというものではありません。プロダクトの改善や広告の運用と同様に、価格もPDCAサイクルを高速に回すことが重要になります。

このプライシングの改善サイクルは、仮説思考や実験思考が身に付いている企業であれば比較的容易に取り組むことができるでしょう。リーンスタートアップ(コストをかけずに最低限の機能を持つプロトタイプを短期間でつくり、顧客の反応を見て改善したプロダクトを開発していく手法)に慣れているベンチャー企業や新規事業のチームであれば、プロダクト開発や事業作りにおけるリーンな取り組み方をプライシングにも適用できるのではないでしょうか。仮説を立て、それを実際の顧客からのフィードバックで学んでいくという方法はプライシングにおいても有効です。
 
プライシングのPDCAの具体的な進め方としては、まず価格の見直しをする目的を定めるところから始めます。そして業界に知見のある仲間たちとの経験則を基に仮説を立て、それを販売データや顧客データから分析・検証します。