データからわかる範囲の答えを出した時点で料金を決定できることもあれば、実際に変動させてみないとわからないこともあるでしょう。そうしたときも、検証でわかる範囲を徹底的にロジックで詰めたうえで、やってみないとわからない部分を明確にしてからテスト運用に臨むべきです。最初からベストのプライシングを目指すのではなく、サイクルの中でよりベターなプライスの発見を繰り返し行っていきます。

この過程で組織としてのプライシングに対する重要性や有効性の認識、そして組織のケイパビリティ(強み、能力)を高め、最終的には自社の価格決定力の向上を実感できるところまで進めていくことができます。 

価格決定力の向上要素
 

 価格が変動する世界で個人が取るべき2つの“振る舞い”

書籍『新しい「価格」の教科書』の中では、価格が変動していく世界における個人の生き方についても紹介しています。ここ数年、「ダイナミックプライシング」という言葉を聞く機会が増えてきました。まだ直接的に価格の変動が起きていない業界でも、たとえば鉄道業界でピーク時間を避けて通勤するとポイントバックされるといったかたちで、疑似的な変動価格が始まっています。

松村大貴著『新しい「価格」の教科書 値づけの基本からプライステックの最前線まで』(発行:ダイヤモンド社)
松村大貴著『新しい「価格」の教科書 値づけの基本からプライステックの最前線まで』(発行:ダイヤモンド社)

また、外食業界ではモバイルオーダーシステムを利用したダイナミックプライシングにまで発展している例もあります。近い将来、美容院・映画館・エステティックサロン・スポーツジム・外食といった時限性の高い商品は、段階的にダイナミックプライシングの考え方が浸透していくと考えられます。
 
このように、さまざまなモノの価格が変動していく社会において、個人はどのように振る舞えば良いのでしょうか。

1つは、フットワークを軽く保っておくということです。混雑度や需要・供給によって価格が変わるということは、多くの人が行きやすい時間帯には料金が高くなり、逆に他の人と違ったリズムで行動ができるとお得になる機会が増えます。ゴールデンウィークやお盆に飛行機・ホテルの料金が高くなるのと同じ原理です。より柔軟に毎日の行動を変えることができ、好きな場所・時間で生活できるようなライフスタイルの人が、よりお得な変動価格のメリットを享受することができるでしょう。
 
もう1つ重要なのは、自らの価値観を磨いていくということです。企業が一律価格で商品を販売するのではなく、さまざまな状況・顧客に合わせた価格を提示してくるようになる未来。それを買うか買わないか、そしていつどのように買うかを決めるのは、買い手である私たち個人になります。すると「この商品・サービスに対して自分はいくら支払うか」ということを問われる機会が自然と増えていきます。ただ、これは難しく考える必要はないのかもしれません。その時々の自分の状況や気分に合致し、そして自らが満足していれば、他の人の価格と差異があっても納得して購入できるからです。価格が変動していく世界では、自らの物差しを磨いていくことも重要になっていきます。