価格3.0時代の個人に求められること
 

プライシングが秘める大きな可能性

書籍では、未来に向けてのプライシングの可能性について触れています。プライシングは利益を追求するビジネス上の活用に留まらず、サステナビリティの目線での活用も急速に進んでいます。代表的なテーマとしては、「食品ロス」と「カーボンプライシング」があります。
 
実は、食品ロスに対してのダイナミックプライシングは昔から行われていました。スーパーマーケットのお総菜コーナーなどで見かける値引き・見切りのシールです。これは商品の鮮度や廃棄期限に連動した価格変動で、日本ではそれぞれの商品にシールを貼っていくというアナログな方法が今でも主流です。一方、海外ではスマートフォンのアプリを活用したり、電子値札を活用したり、値引きによって食品ロスを下げるためのデジタルソリューションも登場しています。

Photo: krisanapong detraphiphat / Getty Images

もうひとつの大きなテーマが、カーボンプライシングです。企業や国の炭素排出量に対して一定の金額が課せられ、より排出量が少ないエコな企業や工場が得をするという仕組みです。1990年代にフィンランドなどで炭素税が施行されたのを皮切りに、数十カ国で導入が進んできました。EV企業のテスラが、この排出権枠の取引によって2020年度に15.8億ドル(約1800億円)という大きな売却益を上げていたことでも話題となりました。

プライシングによって個人や企業の行動変容が起きるというデザインは、人々の道徳心に訴える以上に強いインセンティブとなり、背中を押す力があると私は考えています。コンビニやスーパーのレジ袋の有料化により、多くの人がマイバッグを持って買い物に行くようになりました。このようにプライシングのデザインを巧みに行うことによって、人々の行動をより良い方へ変容させていくことができます。これからの未来で最も重要なテーマとなるサステナビリティに対しても、プライシングは大きな武器となる可能性を秘めているのです。