知っている人前提のコンテンツにしないこだわり

鈴木:初めて川崎ブレイブサンダースの試合を見て驚いたのは、オフラインとオンラインの体験がうまくつながっているところでした。TikTokで動画を見て「こういうことがあるんだ」と知り、アリーナで試合を観戦すると動画で見た以上の衝撃を受けるパフォーマンスを見る。つまり、ストーリー設計がしっかりしているんです。

川崎ブレイブサンダースの場合、試合会場にDJを呼び、TikTokで流行っている音源を差し込んだり、花火や炎の演出をしたり、ライブのような盛り上がりを見せていました。そうやって、動画に収まらない体験を提供して「ネットで見ているだけじゃ足りない」と思えるようになっています。さらに、ハリセンを使った応援方法がシンプルで、初めて観戦しに来た人も参加しやすい仕掛けもあります。

藤掛:そう言ってもらえて光栄です(笑)。応援方法は、試合前に毎回レクチャーしています。初めて観戦する人にとってわからないことばかりでは、試合を楽しむどころか、ファンになってもらえない。そのあたりのハードルも、徹底的に取っ払っています。

鈴木:スポーツをTikTokでマーケティングしようとすると、所属選手が中心となりますよね。何か意識していることはありますか。

藤掛:TikTokは短尺動画なので、選手たちのスーパープレーや珍プレーが中心となります。そのなかで意識しているのは、やはり「知っている人前提のコンテンツにしないこと」です。例えば、競技を深く知っているからこそ面白い内容や選手を深く知らないと伝わらない内容などは避けています。MVPを獲得した選手や日本代表に選ばれた選手の珍プレーや好プレーを出し、それがどうすごいのかがわかる表現になるようにしています。

「本番はどうなったのか?」の強い関心で若年層を誘導

鈴木:個人的に、川崎ブレイブサンダースはいち早くTikTokを取り入れた結果、都心に住む若年層をうまく取り入れることに成功していると感じています。だからこそ、観客には若い人が多い。特に中高生のファンに関しては、両親と一緒に観戦に来るパターンも多いように感じました。

藤掛:バスケットボールは他のスポーツと比べてファンの平均年齢が低く、中学・高校の部活動に所属している人数も多い。若年層と相性がいいことは明確にわかっていました。若い世代の方々にバスケットボールを定期的に見る習慣づくりができれば、競技としての認知度も高まっていくのではないかと思っていました。

TikTokを本格的に活用してからは、明らかに若年層は増えました。新型コロナウイルスの影響による入場制限で、会場に5000人収容できるところ、2500人までしか入れられずチケット購入数を下げざるを得ない状況は多々ありました。それでも、チケット購入数の割合を見ていくと20代が伸びていて、売上を下支えしています。