そんな好調なトラクションをもとに、グローバル・ブレインなどから8億円の資金調達を実施するも、「よくあるスタートアップのような組織崩壊も経験した」(緒方氏)という。30人まで拡大した組織だったが退職が相次ぎ、半数以下にまで減ってしまった。

「それまでは会社が小さいので、『覚悟する人』しか来てくれなかったんですが、8億円も集まると、『イケている会社に入ろう、チャンスを探そう』という人が来てしまうことが多くなりました。経営者も未熟、体制を作るのも未熟でした。今は偶然いい人事も入ってくれましたし、社長である僕がリーダーシップや嫌われる勇気をどう持つかが分かってきたと思っています」(緒方氏)

今回も大型調達と聞けば華やかかもしれないが、交渉には時間も要した。既存の投資家に対してブリッジ的なファイナンスも行い、なんとか資金ショート寸前に大型調達にこぎ着けた。

「エンタメ」でなく「学び」の音声プラットフォームへ


海外投資家からは、Voicyの持つコンシュマーサービスとしての熱量を評価された──緒方氏はそう自らを分析する。

「少し前まではSaaS全盛期。投資家と会話すると、席に座った瞬間に『MRR(月次収益)はいくらで?』と聞かれることも少なくありませんでした。ですが、今回、コンシュマーサービスとして『売り上げはいくらでもいいのでインパクトだ。いかにユーザーのエンゲージメントが高いのか、スティッキネス(粘着性、ユーザーの熱中度)があるのか。離脱率、継続率はどうなのか』と問われました。新しいマーケットをゼロから作ってる会社として投資が入るケースになれたのではないでしょうか」(緒方氏)

緒方氏が言うVoicyの熱量の源泉は、もちろんパーソナリティが配信するコンテンツだ。前述のとおり、高額の利益を出すパーソナリティも登場しているだけでなく、企業やメディアの利用も増えた。その理由について緒方氏はVoicyを「リーチ」のためのメディアとして使うのではなく、「エンゲージ」のために使うパーソナリティが多いからではないかと分析する。「いわば講演会のIT化です。リアルの講演会に近い内容が届きます」(緒方氏)

もちろんタレントやインフルエンサーがパーソナリティとなる、エンターテインメント性の高いチャンネルも少なくない。だが、今後よりフォーカスするのは学びの領域ということだ。この点が、爆発的な人気を見せたClubhouse、そしてTwitterが提供する機能の「Space」など、ライブでの音声プラットフォームとの違いだとも説明する。