まず大久保氏は、フレッシュフードを製造してくれる工場を見つけるところからはじめた。フレッシュフードは、基本的には人間が普通に食べる食事と同じ材料が使われている。犬の体質にあわせて調理時間を変える、あるいは味付けをしないといった点を考慮する必要はあるものの、「人間が食べられないものは作らない」と決めていた。

「どうして、ペットは人間のように旬の食材をつかった食事をしてはいけないのか。実は多くの飼い主が同じ考えを持っていると思ったのです。ペットに与えるのは“餌”じゃなくて、家族と食事をともにする“ごはん”にしたいと本気で思いました」

画像提供:PETOKOTO
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約100社に、ペット向けのフレッシュフードを作る製造ラインを確保して、取引をしてほしいと打診した。だが最終的に決まる1社までほとんど検討もされずに断られたという。

2020年2月に冷凍便でフレッシュフードを届けるサービス「PETOKOTO FOODS」を開始すると、約2年で累計販売数1000万食を突破。ふたを開けてみたら、想像以上の手応えを得られた。3キロの小型犬向けのメニューだと月1万〜1万2000円ほどの月額課金制ながら、冷凍で届くフードを自宅で温めるだけという調理の簡易さ。そして何より、肉や野菜を人間の食事並みのクオリティーで提供するというコンセプトが飼い主たちにハマったのだ。

2022年夏の取材時点ですでにユーザー数は7000〜8000人に達し、さらに右肩上がりで増えている。2023年春には初期投資を回収し、フード事業単独での黒字化も見えてきているという。

売上がすべてを変える

投資家たちからは「ペットビジネスは厳しい、将来性はない」と散々忠告を受けてきたが、結果的に売上がすべてを変えた。どん底の状態にあった会社も売上が伸びていくことで、仲間も増え、どんどん士気も高まっていった。そして手のひらを返すように投資家たちからの評価も変わった。

今後、PETOKOTOは予防医学の視点を取り入れたフード、病気用の犬のための療養食、そして犬だけでなく猫用のフレッシュフード開発、獣医療サービスや保険サービスなどの展開も視野に入れる。

「マッチングサービス、メディア、そしてフードという順番でやってきて結果的に僕はよかったと思っているんです。今はすべてが連関しているから」

画像提供:PETOKOTO
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こんなことがあった。「ペットが亡くなったので、フードサービスの課金を止めてほしい」とユーザーから依頼が来たことがある。PETOKOTOでは、亡くなったペットに向けて感謝を込めた手紙を送っている。しばらくして、同じユーザーからサービスの利用を再開するという連絡があった。PETOKOTOのマッチングサービスを利用し、保護犬を新しい家族として迎え入れることにしたのだという。きっと、この依頼主は犬が体調を崩せばPETOKOTO MEDIAで情報を得ようとするはずだ。