「物心ついた頃から、噛まれたわけでも吠えられたわけでもないのに犬や猫が苦手でした。しかしお付き合いしていた彼女が犬と暮らしていたことで、少しずつ触れず嫌いだとわかり、逆に大好きになっていったのです。そのうち、ペット産業にはデジタル化の遅れや殺処分問題などの社会問題が存在していることを知り、人生をささげてその問題を解決したい、起業しようと思ったのです」

新規事業として、“ペット版みてね”とも言えるペットの写真を投稿するSNSのアイデアをグリーの社内公募のコンペで提案したところ、最終選考まで進んだが、不採用になった。だが、そこで役員から「起業という手もあるのではないか」という選択肢が示される。役員の紹介で同じくIT企業のサイバーエージェントでプレゼンしたところ、投資のオファーがあり、大久保氏はその日のうちに退職を決意した。提案チームの中にいたエンジニアも同調し、一緒にやめると言った。

ペット向けのSNS事業は大コケ、自転車操業の日々

当初、PETOKOTOはペット向けSNSと保護犬猫と飼い手のマッチングサービス「OMUSUBI」という2つの事業を展開していた。保護犬猫のマッチングサービスに関しては登録者が増えるなど、多少の手応えはあったものの、ペット向けのSNS事業はユーザー数が伸びずに大コケした。

SNS事業でいくばくかの広告収益はあったものの、自転車操業の状態が続き、とある給料日の前日にはついに法人口座の残高が10円になってしまった。新規のメディア事業立ち上げに向けた資金を得るために投資家たちに会いに行き、最終的には株主個人から貸し付けてもらう、というかたちで資金繰りを乗り切ることもあった。

保護犬猫のマッチングサービス自体は今も事業を継続しており、ユーザー数は増えている。ただ、今ほどペット関連産業は盛り上がりを見せておらず、保護犬猫のマッチングサービスは当時のPETOKOTOの事業の柱にはならなかった。事業のタイミング的に「早すぎた」ということなのだろう。

保護犬猫と飼い手のマッチングサービス「OMUSUBI」の公式サイトのスクリーンショット
保護犬猫と飼い手のマッチングサービス「OMUSUBI」の公式サイトのスクリーンショット

2017年の年明け早々には共に創業したエンジニアから「辞める」という申し出を受ける。1月に「今年こそ(事業を)成長曲線に乗せられるようがんばろう」と誓った2週間後に、翻って辞めるという決断に至ったという。

それでも目の前には仕事が残っている。大久保氏がエンジニアの見よう見まねでコードを書いて、ホームページを作るくらい人が足りなかった。彼の人生にとって、どん底はこの時期だ。預金残高は増えることなく相変わらずの自転車操業で、いっそ会社をたたんだ方が楽なのではないか、と何度も自分に問いかけた。