一般的に電動キックボードは道路交通法上では「原動機付自転車(原付)」の扱いになるため、ヘルメットの着用が義務づけられているが、実証実験の一環で貸し出されるものは「小型特殊自動車」に分類されるため、特例でヘルメットの着用は任意となる。

今回、男性は運転時にヘルメットを着用していなかった。Luupはヘルメットを着用しない状態でのキックボードの運転について「自転車や他のモビリティと同様、ヘルメットを着用した方が安全であるという指摘はその通りであり、マイクロモビリティ推進協議会としても、着用を推進している」とコメントした。今回の事故が実証実験に及ぼす影響については警察の検証結果を踏まえての検討になるとのことだが、「現時点では変更点について把握していない」という。

電動キックボードはちょっとした距離の移動に便利なことから、若者を中心に利用者を増やしているが、その一方で交通ルールやマナーを違反した危険な運転も目立つようになっている。筆者も東京・渋谷や原宿を歩いている際、歩道の走行や「自転車を除く」という標識がない一方通行路での逆走など、道路交通法に違反して運転している電動キックボードを何度も目撃したことがある。

2022年4月には道路交通法の改正案が可決され、電動キックボードをはじめとする電動小型モビリティは「特定小型原動機付自転車(特定小型原付)」と位置づけられた。最高速度は時速20キロメートル。年齢制限は16歳以上で、運転免許不要、ヘルメット着用は努力義務ということが定められた。施行は2024年夏ごろをめどとしており、電動キックボードの社会実装に向けて動きは着々と進みつつある。

一方で現状の電動キックボードに対して、自動車のドライバーたちから「スピードが遅すぎる」「(専用のレーンがないから)怖い」といった声も挙がっている。もちろん、電動キックボードを取り巻く現状の制度や道路の状況などが完璧なものとは言えないだろう。LUUPにおいては機体の改善なども進めているが、そもそもキックボード全体としてタイヤ径の小ささなどから段差への弱さへの指摘もある。実証実験を通して見えてきた課題をもとに、改善していくべき部分は多々あることは間違いない。

だが、電動キックボードを“新たな移動手段”として社会実装していくには利用者がルールを遵守することも必要だろう。例えば、自動車やバイクは飲酒状態での運転を禁止されている。自転車であっても飲酒運転は道路交通法違反だ。いくら気軽に乗れるからといって飲酒状態で電動キックボードに乗る人がいる限り、こうした事故は後を絶たない。利用者のルール遵守、事業者による違反防止の仕組みを構築、警察の取り締まり強化などがあってはじめてその利便性が享受できるはずだ。