投資領域はこれまで通りBtoBのSaaSやクラウドサービスが中心だ。DNX VenturesはSaaS関連のスタートアップへの出資や支援に定評があり、3号ファンドの日本の投資先も約9割がSaaS企業。新ファンドでもこの領域の日本企業へ積極的に出資をするほか、SaaS同様のビジネスモデルを採る企業や知見が活かせる分野を中心にディープテックやフィンテック、サステナビリティ関連のスタートアップも対象にしていく方針だ。

すでに新ファンドからは複数社へ投資を実行済み。シードファンドを通じて16社へ出資をしているほか、4号ファンドからはシンプルフォームやROMS、アネックスファンドからはアンドパッドやUPSIDERなどに投資をしている。

“スタートアップ冬の時代”とも言われるように、コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻、上場テック系企業の株価下落などによってこの数カ月ほどでスタートアップの資金調達環境が一変した。

SaaSはその影響を大きく受けた領域の1つ。倉林氏も「(特に​​コロナ禍の初期など)SaaSというだけで高いバリエーションがつく時期もあったが、現在は長期にわたって成長を維持できるような会社でないと上場してからも評価されないことが明確になってきている」と説明する。

たとえば近年日本では、米国のスタートアップほどのARR(年間経常収益)や成長率がないのにも関わらず「(米国スタートアップと)同じようなコンプス(競合、類似企業)との比較で評価されるような状態も起きていた」(倉林氏)が、そのような状況は変わってきた。実際に「1年前であれば調達できただろうという会社が、なかなかアップラウンドで調達できないような例も出てきている」と倉林氏が話すように、投資家の評価基準は明確に高くなってきている。

良質なSaaS企業を判断するための指標についても成長率に加えて“成長の効率性”がより厳しく見られ、「単にお金をかけたから伸びるというのではなく、バーンしたキャッシュに対してどれくらいのARRを積むことができるのか、その効率性が高い会社の方が上場企業でも評価される」(倉林氏)傾向にある。それを示すものとして「Burn Multiple(バーンマルチプル)」など新たな指標が使われるようにもなってきた。

もっとも、SaaSビジネスへのプレッシャーが厳しくなりつつあるものの「ビジネスモデルの美しさなど根本的な部分が揺らいでいるわけではない」というのが倉林氏の見解だ。直近で大型調達をしたアンドパッドなどは海外投資家などからの評価も高く、DNXとしてはそのような力を秘めたスタートアップへの投資や、そのようなスタートアップを増やすための支援に力を入れていきたいという。