東京・六本木を象徴するビルの1つ、六本木ヒルズ森タワー──20年前に誕生したこの高層オフィスビルは、職種や年齢によって、さまざまな捉えられ方をする。ある人にとっては憧れの聖地であり、またある人にとっては苦い記憶を呼び起こす象徴ともなっているはずだ。
2003年のオープン時からビルの最上層には、米金融のゴールドマン・サックスが入居(2023年内には虎ノ門へ移転するとBloombergが報じている)。その下層にはヤフーや楽天のほか、サイバード、KLabなど、当時飛ぶ鳥を落とす勢いのメガベンチャーがそろって入居した。オープン翌年の2004年にはライブドア(当時)も同ビルに入り、ネット企業を中心にした新興の成功者を指す「ヒルズ族」というキーワードも生まれた。
だが2006年にはライブドアへの強制捜査をきっかけにしたネット株の暴落、いわゆる「ライブドアショック」が起こり、さらには2006年から入居していたリーマン・ブラザーズが経営破綻し撤退。さらにはそれが契機となり「リーマン・ショック」が起こった。六本木ヒルズ森タワーは、IT新興企業を中心とした新産業領域の栄枯盛衰をあらわす、ある意味でネガティブな印象をまとうことになった。
転機が訪れたのは2010年以降。グーグルを筆頭に、グリー、アップル、ポケモンなどが続々と入居。のちに移転した企業もあるが、再び外資企業や注目企業が集結した。特にスタートアップに関わる人間であれば、2015年のメルカリ入居は記憶に残っているのではないだろうか。六本木の雑居ビルで生まれたスタートアップが創業からわずか2年で400坪のオフィスを構えるまでに至ったのは、当時の若き起業家やスタートアップ関係者に大きな夢を与えた。
そんな六本木ヒルズに2月、シードステージへの出資に特化した独立系ベンチャーキャピタル(VC)・ANRIがインキュベーション施設「CIRCLE by ANRI(CIRCLE)」を開設した。あわせて、プログラム形式での投資も行うという。移転の経緯やその思いについて、ANRI代表パートナーである佐俣アンリ氏に話を聞いた。