実用化の観点では「人間のエキスパートよりもさらに良いものを作れるAIになっていることが重要」だというのが小川氏の考えだ。MOLCUREと同じように高分子医薬品×AI創薬に取り組む企業もグローバルでは出てきているものの、現時点では人間以上のクオリティを実現できているのはMOLCUREくらいだという。

山形県鶴岡市に構えるバイオラボ
山形県鶴岡市に構えるバイオラボ 画像提供 : MOLCURE

中学時代からプログラミングに熱中、父の病気をきっかけにAI創薬の道へ

MOLCUREは小川氏が慶應義塾大学の先端生命科学研究所の博士課程在籍中に立ち上げたスタートアップだ。

「もともとはコンピューター寄りの人間」と話すように、中学生時代からプログラミングを始め、スーパーコンピューティングのコンテストで全国4位に輝くなどコンピューターに熱中した。

そのスキルを活かし、大学では機械学習技術を用いた「遺伝子解析AI」のような科学者向けソフトウェアの研究開発に明け暮れていたが、父親の死が1つのきっかけとなって徐々にバイオの方向へと進んでいくことになる。

「父が癌になった時に(それまで学んできたスキルを使っても)何もできなかった。それを機に、患者さんに対して最短ルートで貢献できるようなことをやりたいと思うようになりました。すでに抗体医薬品が注目されていたこともあり、自分が知る限りの技術を組み合わせて最適な(創薬手法についての)解を模索した結果、進化分子工学からデータを吸い上げ、そのデータをAIで解析して分子を設計するという方程式に行き着いたんです」(小川氏)

MOLCUREで代表取締役を務める小川隆氏
MOLCUREで代表取締役を務める小川隆氏 画像提供 : MOLCURE

当時のゲノム解読装置はDNAの短い断片しか読むことができなかったが、2012年に長いDNAを読める技術が誕生したことも大きかった。

この2つを組み合わせれば、進化分子工学の実験の中からAIにとって心地よいデータがたくさん取れるのではないか──。試してみると想像以上にうまくいったことがMOLCUREの創業につながった。

しばらくの間は周囲に自分のアイデアを話しても「コンピュータを使って薬を作るとか夢物語を言ってないで、もっと実験を勉強しなさい」と叱られることの方が多かったという。それでも時間を重ねるに連れて共感してくれる企業や、期待を寄せる投資家が少しずつ増え、MOLCUREの技術は国内外の製薬企業に導入されるまでになった。

「MOLCUREのAIを使っておけば安心」の実現目指す

同社では今後も引き続き国内外の大手製薬企業とパートナーシップ(共同創薬パイプライン)を組みながら、新薬開発を進めていく計画だ。国内に留まらずグローバルを主戦場として戦っていく方針で、今回の資金調達はさらに事業を加速させることが目的だという。