同氏によると米国でさえもいまだにBtoB決済の60%はアナログな決済だと言われており、デジタル化することで利便性を高められる余地は残されているという。それに対して日本はさらに遅れている状況で、約1000兆円規模とされる法人決済市場のうち、カード決済の比率はわずか0.2〜0.3%にすぎないと言われてきた。

2021年9月にビザ・ワールドワイド・ジャパンが発表したレポート「中小企業の事業間決済におけるキャッシュレス化・デジタル化推進(PDF)」を見ても、中小企業の支払額におけるカード決済のシェアは全体の1%にすぎない(個人カードでの事業用決済も含めた数字)。これは米国の26%や韓国の9%と比べても、大きな差がある。

今後日本でも米国が先行する「法人キャッシュレスやペイメントのデジタル化」の流れを追いかけていくかたちになり、その波に乗ってこの領域の課題解決に取り組むスタートアップの成長も見込めるというのが久保田氏の見立てだ。

また法人決済はあくまで「コーポレートファイナンステック」の1つの領域にすぎないと同氏は言う。現在米国のプレーヤーはそこで蓄積したデータを融資や与信を始めとした他の領域に展開し始めている。

「これまで財務やファイナンスにまつわる情報は、デジタルマーケティングや広告の指標とは異なり、経営者のもとに上がってくるまでにタイムラグがありました。これがBrexやUPSIDERなどのサービスによって『誰が何にいくら使ったか』をリアルタイムで取得できるようになると、CFOが将来の計画をダイナミックに微修正できるようにも変わっていく。実際に米国では『CFOをデジタル武装する』文脈のスタートアップがどんどん増えてきています」(久保田氏)

実際にBrexも2021年8月にスタートアップ向けの融資サービス「Brex Venture Debt」を発表するなど、法人カードを起点に事業を拡張し始めている。

「言ってみれば『法人版のチャレンジャーバンク』のようなものです。BrexにしてもUPSIDERにしても、単なる法人カードの会社とは見ていません。そこを入り口にコーポレートファイナンステックの領域に拡大したり、従業員向けにはペイロールのような方向性に広げたりすることもできる。特に日本の法人向けの金融サービスは非効率や情報の非対称性が多く残っており、変革できる可能性も十分にあると考えています」(久保田氏)