サービス開発にあたっては約100社にヒアリングをしながら、核となる機能や細かい仕様を磨き込んだ。当初は利用限度額の課題を中心に考えていたが、実際にさまざまな企業に話を聞く中で決算の早期化やガバナンス強化のニーズが大きいことにも気づいた。

法人向けの金融サービスということもあり機能開発やクローズド版の試験運用には入念に時間をかけ、正式ローンチを迎えたのは創業から2年以上が経過した2020年9月のこと。そこから急ピッチで事業を拡大し、決済規模は1年間で15倍強に成長した。

宮城氏と水野氏が起業した頃に比べると、冒頭でも触れた通り日本でも法人カードの領域に参入する企業が増えてきているが、「マーケットを広げていく上ではポジティブな流れ」であるというのが2人の見解だ。

「これまで法人カードに対しては、経営者個人がステータスや付帯のサービスを求めるような時代が長かった。そうではなくて事業課題を解決するソフトウェアであるという考え方を、マーケット全体で作っていかなければならないと考えています。その大きな流れを生むには他にも協力者が必要で、これをスタートアップ1社だけで進めていくのは難しいと感じていました」(宮城氏)

先行する海外市場を見ても、この領域は1社だけが市場を独占するWinner takes all(1人勝ち)にはなりづらい。日本においても複数の事業者がそれぞれの特色を打ち出しながら、顧客を獲得していく戦いになりそうだ。

UPSIDERとしては調達した資金を用いて人材採用を強化し、サービスの機能拡充を進めていく方針。合わせて非IT系の上場企業や中小企業などへと顧客セグメントを拡大するべく、マーケティング施策を一気に強化する。

一定の条件を満たした企業に対して月額基本料を無料で提供するほか(通常は発行枚数に応じて1枚1500円からの月額利用料を支払う)、 決済額あたり1.5%の還元施策などを実施する予定。これまでは「資金繰り、便利さ、安心」といった機能的な特徴を主に訴求してきたが、そこに“お得さ”を加えることで「UPSIDERを選ばない理由がない状態を作っていく」(宮城氏)という。

まずは法人カードの新たなスタンダードとしての地位を確立し、2023年までに月間数百億円規模の決済額を目指す。

法人カードの先にある「コーポレートファイナンステック」の可能性

今回DIAMOND SIGNALではリード投資家のWiL(同社は日米のスタートアップに投資を行っている)でパートナーを務める久保田雅也氏にも、法人カードを軸としたBtoB決済市場についての見解を聞いた。