デジタルコンテンツ全盛、「いかに新しいものと出会うか」

鈴木:僕にとって当初のTikTokは、例えるなら「雑誌の表紙」だったんです。目次がInstagramで、本誌がYouTube。つまりTikTokは“表紙”としてユーザーの目を引きつけ、目次や本誌であるInstagramやYouTubeといったコンテンツへ送り込むような役割を果たしていました。それが今、表紙的だったTikTokが本誌の役割も担おうとしている印象もあります。

白地:大前提として、スマホを持つ人が増え、通信速度も5Gエリアが広がりつつあります。そのため、長尺動画を見ることが苦ではなくなりました。その追い風を受け、YouTubeでは良質なコンテンツが続々と生みだされ、2015年に日本へ上陸したNetflixも右肩上がりで会員数を増やしています。

その結果、今の世の中はデジタルコンテンツであふれています。一方で、無自覚に新しいコンテンツと出会える機会が減りました。YouTubeは基本的に自分がチャンネル登録(フォロー)しているユーザーの投稿が表示されるため、真新しいコンテンツはあまり出てこない。そうした中、TikTokは、フィード設計を「フォロー」でなくユーザーの興味に合わせて「おすすめ(レコメンド)」を紹介するものになっているため、新しいものと出会う体験をユーザーへ与えられると考えています。

鈴木:事務所サイドとしての所感ですが、TikTokでは一時期、ニュースをテーマにしたコンテンツもありましたよね。そういったものが増えていくのを見て、流行よりも「文化づくり」に力を入れようとしていると感じたんです。

流行とは「見るとなにかを与えてもらえる価値」があるもの。一方で文化は「それはTikTokで見よう」と思えるもの。そこをうまく醸成できたことも、TikTokの成長につながったんじゃないかと考えているんですが、いかがでしょうか。

ホリプロデジタルエンターテインメント代表取締役の鈴木秀氏
ホリプロデジタルエンターテインメント代表取締役の鈴木秀氏

白地:「流行」と「文化づくり」の考え、面白いですね。以前のTikTokの動画は15秒が最長でしたが、現在は3分まで投稿できるようになりました。そして2020年からはライブ機能も導入しています。これらの機能は、ユーザーが長尺動画を見ることに慣れていないとリリースできなかった機能です。

また、TikTokでは好みじゃない動画だと思えばさっとスワイプして次の動画を見られる。「こういう動画ジャンルが好きですよね?」と、機械学習を活用したレコメンドの仕組みは、TikTokの強みの1つです。TikTokを開けばさまざまな発見があるため、1日の平均利用時間は67分ほどあります。2021年5月時点でアメリカでの直近の視聴時間がYouTubeを2時間ほど上回りました。このエンゲージメントの高さも、TikTokの強みになっています。