海外資本を入れると、どうしても早いタイミングで結果を出すことを求められる。だが宮内氏は、地元に密着しながら、じっくりとこの事業を進めていきたいと考えている。それは宮内氏が電動キックボードのシェアリングサービスを「新たな時代の公共交通」だと捉えているからだ。

「公共交通は地域の人に利用され、地元に愛される存在でなくてはならない」と宮内氏は考える。地元の人が使ってくれなければビジネスとして採算は取れず、公共交通としての責任は果たせない。そこで宮内氏はBIRDのサービス開始にあたり、6カ月間立川エリアに通い、自治体や商工会議所、町内会の会長まで、多くの人に会って意見を聞いた。

地元密着で生まれる独自のビジネスモデル

地元密着にこだわるのは、BIRDのユニークなビジネスモデルにも関係がある。それが「Fleet Manager Program」という制度だ。電動キックボードのシェアリングサービスでは、毎日「電動キックボードの回収」「充電」「メンテナンス」「再配置」という作業が発生する。BIRDではこれをすべて自社で行うのではなく、「Fleet Manager」と呼ばれる地元のパートナー企業に任せることで効率的なオペレーションを可能にしているのだ。

宮内氏は、国内においても地元企業と組んでオペレーションすることを考えている。倉庫に空きスペースがあれば、そこを充電場所として提供してもらう。あるいは自転車店やバイク店、ガソリンスタンドなどに機体のメンテナンスを任せることで、オペレーションにかかる経費を削減することでき、地元企業に新たなビジネスを提供することにもつながる。「実際に街に住み街をよくしたいと考えている人たち、BIRDの理念に共感してくれる人たちと一緒に進めていきたい」と宮内氏は考えている。

「ハードまで自社設計」だから実現した遠隔制御技術

アプリ上で走行可能エリアを確認できる。BIRDは、エリア外に出ると自動的に停止させる技術も持つ
アプリ上で走行可能エリアを確認できる。BIRDは、エリア外に出ると自動的に停止させる技術も持つ (拡大画像)

競合他社と比べたときのBIRDの強みは、「圧倒的なテクノロジー」だと宮内氏はいう。例えば、機体に内蔵したGPSを使ってエリアごとに走行ルールを設定する「ジオフェンシング」と呼ばれる技術に対応している。混雑したエリアで最高時速を制限したり、サービスエリア外に出ると徐々に速度を下げて停止させるといった制御が可能だという。これはソフトウェアだけでなく、電動キックボードのハードウェアも自社設計しているからこそ実現できる機能だ。

実はBRJは、2021年10月7日から米軍横田基地内ですでにサービスをスタートしている。基地内は原則として米国の交通ルールが適用されるため、最高速度は時速25kmに設定されているが、ショッピングセンターや幼稚園、小学校のそばでは最高速度を時速12kmに制限した。実際に電動キックボードでエリア内を走ってみて、「まるで空気の壁があるみたいにすっと減速して感動した」と宮内氏。現在、このように電動キックボードを遠隔制御できるのはBIRDだけだという。