「いろいろやった上でぶち当たったのが、人の欲求にどう打ち勝つかが重要だということでした。パチンコは基本的に完全確率のゲームだと考えているので、1回しか回していないのに当たる時もあれば、1000回試してもダメな時もある。でもここに人の欲求や感情が絡むと、『そろそろ出るはずだ』という根拠のない謎の思いが挟まってくるんです。データに基づけば勝ち目がほぼなく絶対に引くべき時でも、多くの人が過去に偶然勝った記憶に引っ張られ、さらに負けが込んでしまう」

「つまり正しい判断を疎外しているのは人の感情であり、人間理解が欠かせないという考えに行き着きました。データを集め、事実を踏まえて行動し、最後は人間理解に基づいて引くべき時には引く。最終的には、好きな世界で生きていくためには『勝つことよりも、負けない状態に身を置くこと』の方が大切であるというところまで考えが整理されました」(秋山氏)

実際に秋山氏は約5年間パチプロとして生計を立て、多い時の月収は100万円を超えるまでになった。結果的には思い描いていたほどの充足感もなかったことから、別の方向に進むことを決断。20代で複数の企業で働いた後、32歳で起業家としての道を選ぶことになる。

「ビジネスの現場でも、多くの人が誤解しながら仕事をしていると感じることが何度もありました。自分がやってきたことを正解にしたいという考えや淡い期待から、定量的に考えれば正しくない判断をしてしまう。(その原理は)ビジネスでもパチンコでも変わりません」(秋山氏)

比較メディア事業は創業5年で売上10億円規模に成長

ベーシック設立後、最初に立ち上げたのは前職時代から注目していた業界特化型の比較サイトだ。今でこそ比較サイトは珍しくないが、2004年に秋山氏が「引っ越しの一括見積もりサイト」を作った当時は黎明期で、先行するプレーヤーも1社しかいなかった。

狙っていたのは「いざ課題に直面した時に、特定の事業者が想起されにくい領域」で、なおかつユーザーの課題が深そうなところ。引っ越しからスタートし、留学、フランチャイズ、家庭教師と産業ごとに比較サイトを連続で立ち上げる戦略は想像以上にハマり、創業5年目には社員数約20人ながら売上が10億円を超えた。

少ない人員でもスピーディーに事業を展開できたのは「物事を構造化」できていたことも大きい。パチプロ時代と同様に比較サイトを徹底的に分析し、その構造は大きく3種類しかないと結論づけた。そこでサイトを効率的に立ち上げるためのCMSを自社で開発。月に1つのペースで新サイトを作れる体制を整えた。