『火垂るの墓』『となりのトトロ』『千と千尋の神隠し』を含め、世界中にファンを持つ名作を創造してきたスタジオジブリ。その要として組織をまとめる鈴木敏夫プロデューサーが、20代の著者に伝えた「トラブル解決」の秘策とは?本稿は、石井朋彦『新装版 自分を捨てる仕事術 鈴木敏夫が教えた「真似」と「整理整頓」のメソッド』(WAVE出版)の一部を抜粋・編集したものです。
もっとも厄介なのは「人」のトラブル
「解決の必要性の見極め」を鈴木敏夫に学ぶ
映画プロデューサーをしていると、仕事の半分はトラブル対応です。
情報伝達がスムーズにいっておらず、制作進行が滞っているとか、予算が超過しそうなので、いまの体制では難しい……といった、プロなら当たり前のように対応しなければならないことがほとんどですが、もっとも難しいのは「人」だと思います。
制作も順調、トラブルもなく、今回こそは完璧に近い形で仕事ができる……と思っていたときにかぎって、メールや電話が鳴る。
「石井さん、ちょっと相談があるんですけど……」
たいていは、現場での人間関係、プライベートの悩みです。
ときとして精神的な病を抱えてしまったスタッフが、常軌を逸した状態で駆け込んでくることもあります。
ぼくは昔から、人と雰囲気が悪い状態が続くことが嫌いでした。
無論、そんな状態が好き、という人は少ないと思いますが、子どものころから「嫌いな相手や、トラブルのもとになる相手のところに飛び込み、相手と向き合って早く解決してしまう」ということが正解だと思っていました。
いまもそういうところはあって、何か問題があると、積極的に顔を突っ込み、仲を取り持ったりすることは、それほど苦ではありません。
ですが仕事は、子どものケンカのようにはいきません。100人のスタッフがいれば、100とおりの正義があり、すべてに対して前向きな道筋を見出すことは難しい。そして、何よりも、
「本当にそれは、解決すべきことなのか?」
という視点を持つことの重要さを、鈴木さんから学びました。
問題はすぐ解決されたら困る?
まずは焦らないで話を聞く
あるとき、鈴木さんが言いました。
「スタッフがさ、宮さん(宮崎駿監督)とか、おれとか、石井になぜ相談に来ないかわかる?」
ある先輩の話題でした。
その先輩は、徹底的な客観主義者。いつも他人事で、身体を張って問題を解決しようというタイプではありませんでした。
監督の高畑勲さんが、本編の制作体制に関する問題で抗議しに来たときに、その先輩が若手のぼくらを矢面に立たせ、顔色ひとつ変えずにパソコンに向かい続けていたときのことを、いまも思い出します。
でも鈴木さんは、その先輩から学べ、と言うのです。
不思議と、スタッフは彼のところへ相談にやってきます。だれよりもスタッフのために働いている、という自負があったぼくは、それが不満でした。
「それはさ、あいつが、解決しないからなんだよ」
解決しない?
そんな人になんで相談するんだろう?