ぼくが目を丸くしていると、鈴木さんはニヤニヤしながら、続けました。
「人はさ、多くの場合、問題を解決したいって思っていないんだよ。解決しちゃうとさ、その人にも責任が生まれるでしょ。自分が動かなきゃならない。だから、何も解決せずに、聞いてくれる人が大事なんだよ。宮さんとかおれとか石井とかさ、すぐ解決しちゃうじゃん。解決されたら困るの!」
鈴木さんの机の上には、いつもA4用紙が積まれていました。相手が話し始めると、おもむろにペンを取り、その言葉を書きとめ始めます。
これには、ふたつの効果があります。
ひとつは、相手の信頼が得られるということ。ただ「ふんふん、なるほど」と聞くだけよりも、わざわざメモを取ることで、自分の話を真剣に聞いてくれているという信頼を得ることができます。
もうひとつ、よりすごい効果があります。
それは、相手の真剣度を測れる、ということです。
相手が、愚痴、だれかの批判、告げ口、ときには情報操作のために来ている場合、そのメモは当人にとって不利な「証拠」です。特にそれが個人的なノートではなく、人の目に触れる可能性のあるコピー用紙であればなおさらです。
メモを取り始めると、急に語気が弱くなり、モゴモゴとなってしまう場合、その内容は必ずしも真実ではないことがわかる。もちろん、物事に本当の真実なんてものは存在しませんが、少なくとも相手にとって都合のいい話なのだ、ということが見えてくる。
相手の言葉を受け止めすぎると、自分も傷つきますし、相手をどんどん主観的にしてしまいます。メモに取り、常にそれを相手の目の届くところに置くことによって、客観性を維持することができる。
メモを取れなかったり、電話などの場合は、相づちを打ちつつ、タイミングを見計らって、相手の意図を「自分はこう思った」という感じで復唱します。
「○○さんは、この件に関してこう思っているんですね」
本当に解決してほしいと思っている人は「そうなんです」とさらに具体的な話をしてきます。そうではない人は「いや、そういうことじゃなくてですね……」と話題を変えたりする。
後者の場合は、そもそも相手が解決したいと思っていないわけですから、話を聞いてあげるだけでいい。鈴木さんはこの辺の引き出し方が、抜群にうまいのです。