ぼくも、相談ごとを受ける場合は、ノートではなくA4の紙を持ってきて、わざと相手が見える場所に置き、書き出しながら話を聞きます。
相手もチラチラとその紙を横目で見ながら、自分がいま何を話しているのかを客観視できる。
たまに話が終わると、「その紙、ください」と言われることがあるほどです。
相手の話を聞くということは、相手の脳内を整理することでもあるのです。
このとき、自分の主観や意見をそこに差し挟んで相手と向き合ってしまうと、問題は解決しません。
精神療法の基本は、相手の話を聞き、相手のなかの「気づき」を促すという点にあると言いますが、スタッフと向き合う場合も、そこに尽きると思います。「自分を捨てて聞く」のです。
鈴木敏夫式「問題対処の極意」
解決策を相手に見つけさせる
人的トラブルが発生したときに重要なのは、解決策や代案を、先に言わないことです。
相手の話を聞きながら、代案や解決策に関係のあるポイントを、ずっと探しておきます。そして、ある程度相手がしゃべりきったら、
「いまのあなたのお話を伺いながら、ひとつ解決策を思いつきました。あなたのおかげです。こう思うのですが、いかがでしょうか?」
と、解決方法を、相手によって思いついたように提案する。鈴木さんは、意識的か無意識的か、いつもこうやってトラブルを解決していました。
宮崎さんは天邪鬼なので、こちらが提案したアイデアに対しては即、「違います」と言います。でも、
「ああ、宮さんがいま言った方法なら、いけるかもしれませんね」
という言い方を鈴木さんはする。すると、「そうそう、そうなんですよ!」と宮崎さんは喜ぶ。その後は、本人が解決策を見つけて、先に進んでくれるのです。
石井朋彦 著
さらに重要なのは、「解決しない場合もある」ことをふまえてのぞむ、ということです。
トラブルに対応するのは、勇気とエネルギーがいります。でも、結果を求めすぎるとうまくいきません。最終的には、どうなってもかまわない、という覚悟をもってのぞめば、ウジウジ悩んで事態を悪化させるよりもずっとよい結果がもたらされるのです。
鈴木さんの座右の銘に、
「どうにもならんことは、どうにもならん。どうにかなることは、どうにかなる」
という言葉があります。あるお寺に貼ってあったそうなのですが、鈴木さんの生き方の本質は、まさにこの言葉に集約されていると思います。
可能なかぎりの手を打ったら、あとは時が解決してくれるのを待てばいいのです。