魔女のイメージ写真はイメージです Photo:PIXTA

アニメ界の世界的な巨匠・宮崎駿監督と組み、スタジオジブリを牽引する鈴木敏夫プロデューサー。その下で20代の頃に働き方を教え込まれた著者が「自分がやりたい」ではなく「誰かに求められたとおりにやる」仕事術を語る。本稿は、石井朋彦『新装版 自分を捨てる仕事術 鈴木敏夫が教えた「真似」と「整理整頓」のメソッド』(WAVE出版)の一部を抜粋・編集したものです。

世の中には2種類の人間がいる
鈴木プロデューサーは「非情熱」タイプ

 スタジオジブリのプロデューサー・鈴木敏夫さんは、ぼくとまったく正反対の性質を持つ人です。

 メディアを通して知られる情熱的な語り口とは違い、ふだんは決して熱くなりません。出会った当初は、それがとても不思議でした。ジブリをここまで大きくしたプロデューサーが、なんだかとても冷めている。

 鈴木さんが、「いつかこんなことをしたい」「こういうことが人生の夢だ」などと、夢や希望について語っているところを、見たことがありません。

 以前、ドキュメンタリー番組「情熱大陸」が鈴木さんを追いかけることになったとき、思わずこう言いました。「鈴木さんに『情熱』という言葉は似合わない。『非情熱大陸』というタイトルにしたほうがいいのではないか」。鈴木さんは「それはいい!」と笑っていましたが、本心から出た言葉だったのです。

 鈴木さんはよく、世の中には2種類の人間がいる、と言っていました。

 一方は、人生に夢と目標を持ち、そこへ向かって突き進もうとするタイプ。

 もう一方は、特に目標は持たないが、目の前のことは一つひとつやる、というタイプです。鈴木さんは、自分は後者であると常々言っていました。

 ぼくはどちらかというと、前者です。子どものころから、いつもなんらかの目標がありましたし、夢を持って突き進むことが何よりも大事だと考えてきた。世代や教育の影響もあると思いますが、ぼくのきょうだい全員が同じタイプというわけではないので、生まれ持ったものも大きいのだと思います。

 学生時代も、アルバイト時代も、そうした「前向きさ」を評価され、それが自分の美点だと思っていました。ですが、鈴木さんにはまず、そこを叩き直されたのです。

 その鈴木さんはとにかく腰が重い人です。周囲が「鈴木さんそろそろ……」と言い出してから動きだします。ただ、動きだしてからの思考や仕事は、緻密かつ迅速です。

 鈴木さんだけではなく、映画監督の高畑勲さんも押井守さんも「頼まれたからやる」「そういう状況になったから動く」タイプです。意外ですが、クリエイターには「必要とされたからやっている」と公言してはばからない人が多い。でもそういう人のほうが、素晴らしい仕事をしているのです。