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数々の大人気アニメ作品を生み出してきたスタジオジブリの宮崎駿監督、高畑勲監督。その両巨匠を支えたトッププロデューサーの鈴木敏夫氏から、若き日の著者が厳しく教え込まれたのは「社会的バランス」の大切さだった。本稿は、石井朋彦『新装版 自分を捨てる仕事術 鈴木敏夫が教えた「真似」と「整理整頓」のメソッド』(WAVE出版)の一部を抜粋・編集したものです。

「バランスを大事にしろ!」
鈴木プロデューサーから連日の喝

 ぼくは、とても極端な人間です。

 感情的ですし、熱しやすく、冷めやすい。のめり込むと、まわりが自分のことをどう見ているのかを気にせず、突っ走ってしまうこともしばしばです。たまに、極度の自己嫌悪に陥ります。

 でも、なんでも平均的だという人はいないし、おもしろい生き方をしている人ほど、よくも悪くも偏っているものです。

 鈴木さんもまさにそうです。せっかちで待たされるのが大嫌い。食堂で、前の人のテーブルが片づけられる前に席について、お店の人を困らせますし、せっかちすぎてトイレで手を洗わないことが、スタジオで問題になったこともあります。

 そんな鈴木さんからぼくは、「お前は極端だ。バランスを大事にしろ」と言われ続けました。

 バランスが取れているって、どういうことなのでしょうか。「バランス感覚?」「平均的に秀でていること?」。平均というものがわからず悩んだ時期もありました。でも、鈴木さんの言う「バランス」とは、平均のことではなかったのです。

 ある日、自席の机で新聞を広げていると、鈴木さんがちらっと横目でぼくを見て通りすぎました。しばらく経って、部屋に呼ばれました。

「石井、さっき、新聞広げて読んでいただろ。あれ、やめたほうがいいぞ」

 別に、漫画や雑誌を読んでいたわけではありません。仕事のために読んでいたという認識でしたから、ぼくはちょっとカチンときて、「どうしてですか?」と反論しました。鈴木さんはタバコをふかしながら、ニヤッと笑って言いました。