豪華客船を舞台にした1970~80年代の米人気テレビドラマ「ラブ・ボート」は「誰もが楽しめる」をうたい文句にしていた。それから半世紀近くがたった最近では、それが現実のものとなっている。

 このドラマが放送されて人気が高まる前は、クルーズ旅行は「新婚や死にかけた人」向けだと揶揄(やゆ)され、運賃も現在よりずっと高額だった。自家用ヨットを持てるほど裕福でない人は今、大枚をはたけば、豪華でくつろげる旅行や南極大陸のような場所へのエネルギッシュな冒険を楽しむことができる。だが最近のクルーズ船利用者は、「海に浮かぶ家」で食事をしたり、もてなしを受けたり、余興を楽しんだりしたい中流階級の欧米人が大半を占める。子ども連れも多い。超効率的なクルーズ業界は、まるで浮かぶテーマパークのような巨大客船を建造し、さらにはクルーズ会社が所有するプライベートアイランドまで開発することで、それを可能にしている。

 クルーズ会社は租税回避地を利用し、開発途上国から何千人もの労働者を雇うなどして、クルーズにかかる費用を抑えている。しかし、クルーズ業界の本当の秘密の方程式は、近代的な船とクルーズ港によるスケールメリット(規模の経済)だ。プラスの副次効果としては、無駄を省くことで環境にも優しいという意味合いが一段と強まっていることが挙げられる。

 国際業界団体クルーズ・ラインズ・インターナショナル・アソシエーション(CLIA)から入手可能な最も古いデータである1980年には、外航クルーズ旅客数は140万人だった。その数はまさに「ラブ・ボート」の影響で既に急増し始めていた。MSパシフィック・プリンセス号を舞台にしたこのドラマは、米ABCが1977年に放送を開始し、9シーズンに及ぶ大作となった。このドラマがプロダクト・プレイスメント(映像作品に実在企業の商品・サービスを登場させる広告手法)として史上最大級の利益をもたらしたことは間違いない。CLIAは2024年について、旅客数は3600万人、クルーズ業界が運航する外航船数は大半の国の海軍よりも多い300隻と想定している。

 クルーズ運賃は高額でないものが多い。また、新型コロナウイルス禍で運航停止に追い込まれたクルーズ会社が乗客を呼び戻そうとした際のように、大幅に割引されることもある。大衆向けクルーズ船の運航会社が、不況下でも満席になるほど運賃を低く抑えられるのは、コストの大部分を占めるのが船自体と燃料費だからだ。乗客搭乗後の飲料・スパ施設・専門レストラン・ギャンブルなどの船内消費によって、運航会社は収益の3分の1以上を稼いでいる。

 来年1月には、米クルーズ船運航大手ロイヤル・カリビアン・グループの世界最大の客船「アイコン・オブ・ザ・シーズ」が就航する。乗客定員は最大7600人(乗組員2350人を除く)だ。その驚異的な大きさはそれ自体がセールスポイントだが、同船は節約を追求する姿勢も強調している。

 世界最大のクルーズ船運航会社、米カーニバルのチーフ海事オフィサーを務めるビル・バーク氏は「船長は1人で、操舵(そうだ)室チームとエンジニアリングチームも1チームずつ。船内の他部門の編成も同様だ」と話す。カーニバルは27年前、業界初となる10万総トン超えの客船を就航させた。その大きさは、1912年に沈没した豪華客船「タイタニック号」の2倍超だった。アイコン号はタイタニック号5隻分の大きさだ。

 また最新の巨大客船は、ラブ・ボート時代の運航会社幹部には夢見ることしかできなかったようなエネルギー効率によって経費を節約している。同番組に登場したパシフィック・プリンセス号は、最初期の専用クルーズ船の一つだった。それ以前は、1960年代に大陸間ジェット旅客機によって時代遅れになった外洋客船を改造して使用していた。パシフィック・プリンセス号は安価で低質なバンカー燃料を燃やし、約600人の乗客を乗せていた。

 カーニバルはコロナ禍によって財政的に崖っぷちまで追い込まれたが、そのタイミングを利用して、年式が古めでサイズも小さめの船を売却または「リサイクル」した。同社はその間接的な成果として、2026年までに船舶の温室効果ガス排出強度を削減するという国際海事機関(IMO)の目標を、予定より数年早く達成できる見込みだ。クルーズ・インダストリー・ニュースによると、2020~22年には業界全体で船舶38隻が引退し、その平均船齢は2017~19年の引退船を6年下回っていた。

 最新の巨大客船は、乗客1人当たりの環境フットプリント(環境への負荷)が従来船よりも優れているにもかかわらず、驚くような娯楽施設であふれている。アイコン号は総デッキ数が20で、(ラブ・ボートの)スタビング船長が見たら、自慢のニーソックスから飛び出すほど驚いていただろう。同船の内部面積は、10年前に廃船となったパシフィック・プリンセス号の約12倍で、七つのプールと六つのウオータースライダーに加え、飲食・ギャンブル・エクササイズ・生演奏を楽しめる場所が数十カ所ある。さらに、ジップライン、バンパーカー、ロッククライミング、サーフィン、ミニゴルフもプレーできる。

 アイコン号は環境負荷が比較的少ない液化天然ガス(LNG)を動力源とし、船体には摩擦を減らすための特別なコーティングがなされている。さらに、陸上電源に接続でき、廃棄物は自己処理する上、海水淡水化によってほぼ全量の水を生成することができる。グリーン化の恩恵は燃料の節約にとどまらない。政府や特にクルーズ船寄港地は、巨大な船舶や記録的な数の旅客が環境に与える影響を認識しており、公害を回避しようという動機がますます高まっている。だがカーニバルのバーク氏は、巨大船には航行可能な場所が限られるなどのマイナス面もあると指摘する。

 「ある時点で、特定の場所への入港が制限され始める」と同氏は言う。

 それを回避し、さらにエネルギーを節約して収益を押し上げるために、クルーズ会社はフロリダ州のクルーズ港からすぐのところにあるプライベートアイランドのリースまで行い、それらの島に「キャスタウェイ・ケイ」や「パーフェクトデイ・アット・ココケイ」などの新名称をつけている。その多くは巨大客船を収容できるドックを備え、島内で消費したお金が全てクルーズ会社の懐に入るような人工の南国を提供している。

 それでも、超効率化は限界に近づいており、インフレもクルーズ業界に影響を及ぼしている。船上で自動徴収するチップをクルーズ会社が引き上げたことに不満の声も上がる。米クルーズ船運航大手ノルウェージャン・クルーズは今年、プレミアム・キャビン以外の客室で夕方にベッドを整えるターンダウン・サービスを減らしたり、9オンス(約255グラム)のハンバーガーを7オンスに変更したりといったコスト削減策で注目を集めた。

 いずれにせよクルーズ船を利用する旅客数は記録的な水準となっており、株主もそれを歓迎している。コロナ下で破綻の危機に陥った大手運航会社3社は現在多額の負債を抱えているが、それでも株価は今年だけで平均76%も回復している。

 これを喜ばない手はないだろう。


全長約362メートルのクルーズ船をフロリダ州ポートカナベラルに乗り入れる方法などについて語るロイヤル・カリビアンの船長(英語音声・英語字幕あり)Photo illustration: Ryan Trefes
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