
百貨店のお客様相談室長として、数多くのトラブルを解決してきた関根眞一氏は苦情対応のプロ。女性社員を泣かせ、同僚を退職に追い込んだ“カスハラの王様”に立ち向かった攻防戦の一幕を明かす。悪質クレーマーとの直接対決から得た教訓とは――。※本稿は、関根眞一『カスハラの正体〈完全版〉となりのクレーマー』(中公新書、中央公論新社)の一部を抜粋・編集したものです。
カスハラとセクハラの二重苦
書籍売り場に潜むクレーマー
「何でそんな大事なことを、早く言わなかったんだ!」と、私は書籍売り場の社員に怒っていました。現場で何度も繰り返されたカスハラ、それも、セクハラともとることができる事件を処理できずにいたということが分かったのです。
30代前半の男が書籍売り場で女性社員を困らせて泣かせるのだそうです。店長や総務担当に、「あなたたちは、そのとき何をしていたのか」と聞くと、その男から先にくぎを刺されたのだそうです。
「この女性が嘘を伝え私を翻弄(ほんろう)し、無駄な時間を費やしたため文句を言っている。たとえ上司でも、出る幕ではない、この女性が悪いのだ」と。
「それで、対抗せずにそこに居たのか」
「引き下がりはしません。そこで動向を確認していました」
「つまり、見ていただけじゃないか。それでは販売員が職場放棄して辞めてしまうだろう」
「…実は、すでに2名がこの男の犠牲になり辞めています」
「呆れたよ、どのくらい前からだ」
「かれこれ、3年になります」。実に長期間にわたる被害です。
翌日、旧知の書店役員と本部の部長、店の店長と総務担当の4名を呼び、相談しました。