日本の医薬品は「よく効く」といわれ、コロナ禍以前のドラッグストアは医薬品を買い求める中国人観光客でにぎわった。中国人の間では、日本の薬局で処方される保険処方箋薬(以下、処方箋薬)に対するニーズも高いという。日本の医療保険制度をベースに低価格に抑えられている処方箋薬だが、一部では中国向けに横流しが行われている。日本の医薬品の流失が続けば、医療保険制度の維持存続にも関わる。(「China Report」著者 ジャーナリスト 姫田小夏)
日本の処方箋薬が中国へ闇売買
今からさかのぼること5年前の2018年6月、大阪府警生活環境課は、貿易会社経営者の中国人を含む4グループの計9人を逮捕した。容疑は中国人観光客らに販売する目的での処方箋薬の保管だった。同課は大阪市内にある各グループの事務所を摘発し、高血圧薬・糖尿病薬・ピロリ菌除去薬などの医薬品の計約14万点を押収した。
同課は同年12月にも、埼玉県草加市の医薬品卸売会社の社長や中国籍で別の医薬品卸売会社の元従業員ら3人を、中国人の密売グループに医薬品を横流しした疑いで逮捕している。
いずれも大阪府警が動いた事案だが、大阪は歴史的にも医薬品との関わりが強い土地柄だ。大阪市中央区にある道修町には大手製薬会社や医薬品卸が軒を連ね、江戸時代から続く薬問屋街の面影を今に伝えている。
大阪市西成区の一角も、薬に“縁”のあるエリアだといえる。地下鉄御堂筋線の動物園前駅からほど近い商店街では、医療費扶助を受ける生活保護者が、病院に処方してもらった薬を業者に売る光景がたびたび目撃されている。近隣住人のA氏は「あそこで処方箋薬を売り買いしてはります」とその方角を指さす。
大阪出身で都内在住の飲食業経営者・B氏は、「大阪はいろんな意味で“薬”に縁がある町」だと言い、冒頭に掲げたような「処方箋薬の横流しと闇売買」は今なお続いていると話す。
しかも近年はこんな変化が表れているという。