対外輸出はほぼノーマーク

 しかし、近年は物流環境も変わった。2021年にはEMSの通関が電子化され、内容物の詳細を英文で明記しなければならなくなった。処方箋薬の種類は広範に及び、これに一つ一つ英文表記を施すのは厄介な作業だ。

「だから密輸出業者は、EMSではなく中国系の国際宅急便を使うようになったのです」とD氏は言う。送料が割高になるものの、これを使えば医薬品を確実に中国に送ることができるのだ。

「コロナ禍で中国からの人の往来が止まり、訪日客や転売ヤーが日本の市販薬や処方箋薬を持ち帰れなくなりましたが、その間も中国に向けた医薬品の流れは止まりませんでした」とD氏は回想する。しかし、仮にそうだとしたら、医薬品卸は中国系国際配送業者ともつながっている可能性がある。

 ちなみに、筆者は都内に店舗を持つ中国系国際配送業者に、処方箋薬を送ることは可能かどうか尋ねた。すると、「中国政府が禁止しているので送ることはできない」とはっきりと断られた。関東と関西とでは、法規法令の順守に対する温度差があるようだ。

 C氏は“ミカン箱”で中国に処方箋薬を送ったが、D氏によれば“女性用の靴箱”に入れて送るケースもあるという。

 日本の大手物流企業に勤務するE氏は、「小さな靴箱とはいえ、中には相当な数の薬が入ります。小さな箱でも金額にしたら数百万円相当の薬を入れることができ、物によっては百数十人分の薬を入れ込むことが可能でしょう」と語る。さらに次のように続けた。

「日本は輸入には厳しいですが、輸出には無防備なところがあります。武器・先端材料・工作機械などの外為法違反となるような戦略物資を除けば、対外輸出はほぼノーマークに近い状況です」

 処方箋薬の輸出について、日本貿易振興機構・貿易投資相談課からは「日本の薬機法では、輸出のみを行おうとする者は医薬品メーカーから医薬品を購入することができない仕組みとなっている」という見解を得た。しかし、その他の各省各機関における解釈はさまざまで、国民はもとより外国人にもわかりやすい「これはこうだ」という見解は得難い状況だった。