簡単には対中輸出できないはずの処方箋薬が・・・

「処方箋薬の闇売買は日本でもあちこちで行われていて、売るのも日本人、買い取りも日本人でしたが、近年は一部の薬が中国に流れるようになりました」

 薬機法(※1)の第49条第1項によれば、処方箋薬は、医師・歯科医師・獣医師から処方箋の交付を受けていない者に対し販売・授与することはできない。その処方箋薬が中国に流れているとはどういうことなのだろうか。(※1 医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器及び再生医療等製品に関する運用を定めた法律)

 筆者はB氏からC氏を紹介された。C氏は2000年代前半に入社した大阪市内の医薬品卸の会社で、中国向けに処方箋薬の輸出業務を担当していた。

「中国人による爆買いが本格化する2015年前後には、毎月のように処方箋薬を輸出していました」と当時を振り返った。

 C氏は、中国から送られてきた30件ほどの宛先に対し、ミカン箱大の段ボールに処方箋薬を詰め込み、日本郵政が扱う国際スピード便(以下、EMS)で発送を繰り返していたという。中身は、糖尿病薬や高血圧薬、すい臓がん用を中心とした各種がん治療薬が多く、美容整形などで使用するヒアルロン酸などもあったと語る。

 一方、中国は、医薬品の輸入について「薬品管理法」「薬品輸入管理弁法」「薬品登録管理弁法」による制限を設けているため、日本から簡単に輸出することはできない。中国で医薬品を輸入するには、国家薬品監督管理局(NMPA)が認可発行した「輸入薬品登録証」を取得しなければならず、輸入薬品を登録するには「薬品登録管理弁法」に従い、国外の適法な薬品メーカーが申請を行わなければならないと定められているのだ(※2)。(※2 医薬品の現地輸入規則および留意点:中国向け輸出 | 貿易・投資相談Q&A - 国・地域別に見る

 また、中国では処方箋薬のインターネット販売は認められておらず、国外から郵送での個人輸入も許可されていない(参照:「諸外国における処方箋医薬品の個人輸入に関する法規」、岡沢宏美、社会薬学より)。さらに海外からの処方薬を中国に持ち込む場合も、個人で使用する合理的な量に限られている。

 このように中国政府は高いハードルを設けているのだが、日本の処方箋薬はいとも簡単にこれをかいくぐる。そこには「こんなカラクリがある」とC氏は明かす。