日本国民の身銭が中国に流出する
日本の国民は、国民皆保険制度により公平な医療を受けることができる。医薬品についても、メーカーが価格を決める市販薬とは異なり、保険医療で用いられる処方箋薬は国が価格を決めることで、価格を低く抑えている。
そんな日本の処方箋薬が中国で多額の差益を生み出している。これは、中国では、メーカーが医薬品の価格を定める自由価格制度を採用しているためでもある。
日本では今、医薬品が不足している。筆者も先月、主治医から「せき止めは今後処方できるかわからない」と言われた。日本では新型コロナやインフルエンザの流行もあり、せき止め薬などを中心に供給が不安定になっているが、将来にわたり医薬品全般の不足はさらに深刻化するといわれている。
こうした状況下でも、中国への処方箋薬の横流しは継続的に行われていると見られる。個人ベースの横流しについては、こんな証言もあった。
「処方箋薬は中国人の間で需要が高く、中には『1年分くれ』という人もいます。先日も36度台で元気なのに『解熱剤を処方して』と言われたので、『症状ないから』と断ると『なぜくれない』と怒り出す患者もいました。小規模病院になるほど経営が苦しく、医師は患者の言いなりで、横流しに目をつぶるのがほとんどではないでしょうか」(千葉県の総合病院の医師)
これについて、過去に都内の小規模病院で事務長職をしていたF氏は、「日本からの止めどもない資金流出に等しい」と絶句し、さらにこう指摘した。
「私がいた病院がそうだったように、医薬品卸の営業と病院長の間ではリベートが動き、不正も多い。独特な体質を持つ一部の医薬品卸と中国のブローカーの結託は考えただけでも恐ろしいことです」
話は少しそれるが、16世紀の日本では、ポルトガル船が日本の若者を奴隷として国外に連れ去るという出来事があった。これをとがめる秀吉にイエズス会の宣教師・ガスパール・コエリョは「ポルトガル人が日本人を買うのは日本人が売るからであって、それを国法で禁止すればよいであろう」(松原久子著『日本の知恵 ヨーロッパの知恵』より)と回答したという。
「それを売る日本人が悪い」「それを許す制度が悪い」と居直られても困る。国際化の流れが止められない今、外国人にもわかりやすい形での日本のルールの周知徹底が求められている。