国会に対策推進法案が提出されるなど、社会的関心を集める悪質ホスト問題。外部からは伺いにくいホストクラブ店内の実態を、元ホストの男性(20代)が証言した。彼が働いていた新宿・歌舞伎町の店舗では、「『DV』が繰り返されていた」。内勤スタッフが新人ホストを暴力や暴言で、売上最優先の思考へと追い込む。そしてホストも、女性客を暴力でコントロールして「風俗へ堕とす」。ホストクラブという閉鎖空間における暴力支配の実態が明らかとなった。
気さくだった「内勤さん」が
豹変した“あるきっかけ”
「退店するとき、ホスト時代のことを外で話さないように言われました。そのため、身バレは避けたいです」
都内の会議室で取材に応じた、ジンさん(仮名)はこう話すと少しおびえた様子を見せた。彼をホスト業界に引き入れた人物や、働いていたホストクラブXの存在は確認できたが、彼の意向を踏まえ詳細は控える。勤務歴についても、所属店舗の実態を証言するのに、十分な期間とのみ記す。
ジンさんは店で働き始めると、挨拶の仕方やドリンク作りなどに関する店舗研修を一週間ほど受けた。この間、先輩ホストや「内勤さん」と呼ばれるスタッフ(以後「内勤」)は、共に親切だった。「分からないことがあったら、何でも聞いて」と、気さくに接してきた。
ところが、正式配属になると、内勤の態度が豹変した。複数人いた内勤は40、50代の男性で、中には元ホストもいる。店の売上は、自分たちの雇用や給与にもろに影響する立場だ。内勤の態度変化を、ジンさんは「ホストよりも、お金にこだわるため」と分析する。内勤と違って先輩ホストは、引き続きジンさんには親切だった。
内勤は、ジンさんら新人ホストや一定期間働いても売り上げが伸びないホストに「『DV』をしてきた」。
ドメスティック・バイオレンスの略語である「DV」とは、元を含む配偶者や恋人など親密な関係を持った人から振るわれる、心身への暴力を指す。だが、本稿ではジンさんの発言そのままに、閉じられた人間関係での暴力的行為という意味で使用する。
ジンさんが気に障る行為をすると、内勤は女性客から見えない店舗裏に連れ出した。そこで「何してんだよ」と言いながら、顔や肩を殴ったり、蹴ったりしてきた。時にアザができるほどだった。
ジンさんは、一般的な成人男子の体格を有しているが、あえて抵抗はしなかった。「ホストを続けたかったので、店に居られなくなるのが嫌だった」からだ。
怒りの沸点が低い内勤も多かった。普通に会話をしていたはずなのに、「お前、それどういうことなんだよ!」などと、いきなりキレた。今振り返っても、ジンさんは「理由はわからない」という。
彼らは売り上げを上げている「ナンバー入りホスト」と、売り上げが伸びないホストで、露骨に扱いを分けた。前者に対しては、自ら挨拶し、世間話を振るなど愛想よく接する。ジンさんも含む後者に対しては、上記のように暴力・暴言を吐き、さらに無視をしたり、日常的にぞんざいな態度を取ったりした。